多読一年と400万語通過のご報告(例によって長文)その1

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13115. 多読一年と400万語通過のご報告(例によって長文)その1

お名前: wkempff
投稿日: 2014/10/23(20:54)

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多読を開始して約1年、ようやく400万語に到達しました。

350万語〜400万語の間は、エドガー賞受賞作品を集中して読みましたが、最後に読んだ、Dennis LehaneのLive by Nightに思いのほか時間がかかりました。
長くなりますので、2部に分けて報告します。
基本、自分のための読書記録ですので、冗長ですが、お許しください。

●400万語までのサマリー
2013年11月10日〜2014年10月31日
405万5千語
27冊+映画のシナリオ1作

★いちばん感動した作品
Ordinary Grace, William Kent Klueger著:次の記事で紹介します。

★いちばんスリリングだった作品
Red Sparrow, Jason Mattheus著:次の記事で紹介します。

★いちばん読みやすかった作品
The Lock Artist, Steve Hamilton著

★とにかく長かった作品
The Luminaries, Eleanor Catton著 27万3千語
11/22/63、Steven King著 27万語

★とにかく読みにくかった作品
The Luminaries, Eleanor Catton著:ブッカー賞審査員も混乱させる複雑怪奇な長編。
Live by Night, Dennis Lehane著:暗喩に富み人間の心をえぐる情緒的名文。

★おすすめベスト7
1.Ordinary Grace, William Kent Klueger著 田舎で静かに暮らす牧師一家を襲う悲劇を乗り越える少年の心の成長。感動的。
2.Sycamore Row, John Grisham著 Grishamの原点回帰、法廷の詳細な描写。人種差別問題が根幹にあります。
3.Gone Girl, Gillian Flynn著 夫婦の虚栄と悪意が交錯する、無茶苦茶怖い、サイコホラー。
4.The Lock Artist, Steve Hamilton著 トラウマで声を失った青年が、恋人一家を救うために金庫破となって裏社会で活躍、プラトニックに近い恋。
5.11/22/63、Stephen King著 瀕死の友人に懇願され、タイムトンネルを抜けてケネディ暗殺を阻止しようとする高校教師。時空を超えた恋と詳細な時代考証。
6.The Girl with the Dragon Tattoo、Steve Larsson著 ピアスと刺青だらけで他人に心を開かない天才ハッカーと社会派ジャーナリストのコンビがスェーデン財閥の暗部を暴く。
7.Red Sparrow, Jasson Matteus著 元CIAエージェントによる東西諜報戦の描写。ロシア美人スパイとCIAエージェントの許されない恋。

補欠は、Live by Night, Dennis Lehane著、でしょうか。文句のない名文、エンタテインメントですが、いかんせん、わかりにくいので。

●英語力の変化
【語彙力】
ほんの少し、上がった。なんとなく、わからない単語が減少してきたように思います。もちろん、作家の文体や作風に強く依存します。だいたい、鳥頭なので、何度調べても覚えない単語、というのが出てくるんですよね。これ、相当にフラストレーションたまります。

【読むスピード】
かえって落ちてきた。わからない単語が少なってきたせいか、なんとなく、読み飛ばせなくなってきました。それで、頻繁に辞書を引いたり、よくわからないところを読み返したりして、決して、読書スピードは上がっていません。150WPM〜200WPMの低位安定と思われます。

【リスニング】
徐々に上がってきた。AFNなら、ゆっくり聞こえるようになってきました。映画は、まだまだ、ですね。

【読解力】
上がった、らしい。。。。
たいていの現代小説は、アバウトな読み方でよければ、読み通せる自信がついた、というのは、大きいかな、と思います。
しかし、最後に読んだ、Dennis Lehaneの、Live by Nigtは、非常に苦労しました。
超難解な、Eleanor CattonのThe Luminariesは、覚悟の上で読んでいますし、ビクトリア風の、ややこしくもってまわった表現を楽しんでいるところもあるんですね。Live by Nightは、あまり難解と予測しなかっただけに、名文をスムーズに読めず、実力不足を思い知らされました。

稀代の名文家であり、人の心の奥をえぐるような小説を書くLehaneですが、今回のものは、前に読んだMystic Riverより、大変でした。このくらいのものを、文章を味わいながら、ちゃんと読めるようにならないといけないですね。

ここのところ、エドガー賞受賞作品を集中して読んだので、エドガー賞について、もう一本、記事を書かせてください。

続きます。

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2013.10.-12.27
8冊,  101万3千語

2013.12.28-2014.3.17
7冊  累計 217万9千語

2014.318-6.15
5冊 累計 304万8千語

2014.6.20-7.8
Gone, Mo Hayder著 13万1千語
2014.7.10-8.1
Poppet, Mo Hayder著 13万4千語
2014.8.2-8.19
Sycamore Row, John Grisham著 17万7千語

2014.6〜2014.8
Movie Senario:The Girl with the Dragon Tattoo, 4万1千語

計 353.1万語

2014.8.24〜9.7
The Wicked Girls, Alex Marwood著 10万4千語
2014.9.9-9.20
 Ordinary Grace, William Kent Krueger著 10万8千語
2014.9.21-10.5
Red Sparrow, Jason Matthews著 15万8千語
2014.10.6-10.23
 Live by Night, Dennis Lehane著 14万語

合計 404万1千語


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13116. 追加:エドガー賞一気読みの記録

お名前: wkempff
投稿日: 2014/10/23(20:59)

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400万語通過報告、その2です。

このところ、エドガー賞がらみの作品をいろいろ読みましたので、受賞作品の紹介をしてみます。
またまた長文で恐縮。自分のための記録ですが、少しでも参考になれば幸いです。
●が、350万〜400万語の間に読んだ作品。

結論から言うと、読む本に迷ったら、エドガー賞にからんだ作品を読めば、間違いなく楽しめるのではないか、というところでしょうか。

【読んだ作品】
2011 Best Novel : The Lock Artist, by Steve Hamilton
2012 Best Novel: Gone, by Mo Hayder
●2013 Best Novel: Live by Night, by Dennis Lehane
●2014 Best Novel: Ordinary Grace, by William Kent Crueger

●2014 Best First Novel: Red Sparrow by Jason Matthews
●2014 Best Paperback Original: The Wicked Girls by Alex Marwood

以下は、候補作
2013 Best Novel Shotlist: Gone Girl, by Gillan Flynn
2011 Best First Novel Shortlist: The Serialist, by David Gordon

【エドガー賞とは】
エドガー賞、The Edgar Awardは、アメリカ探偵小説家クラブの文学賞。
アメリカのミステリーに関する賞の中で、もっとも権威があるといわれています。

Best Novelがもっとも権威のある賞ですが、同じ年に、Best Paperback Original、Best First Novelをはじめ、ノンフィクションやヤングアダルト、児童書など、12ジャンルがあります。

【ここでは、出色と思われる3冊を紹介。】

★Ordinary Grace:
ミネソタの田舎町の13歳の少年、聖職者の息子が、吃音のある弟とおもに、家族を襲った悲劇を乗り越え成長していく様を描いた、心温まる作品。家族の再生、宗教との関係が、淡々と語られます。中年になった主人公が、13歳の夏を回想して一人称で語る形式。ヘミングウェイのような、流れるような文体で、ミネソタ川、鉄橋、河原、教会、農作業のための小屋など、目に見えるようです。謎解きの要素もなくはありませんが、少年と弟の日常にいつか感情移入し、涙が止まらなくなりました。

Live by Night:
人間の業を深くえぐるような小説を書く、名文家Lehaneの新作。禁酒法時代を舞台にしたピカレスクロマンで、少年が、危機を乗り越えながら、マフィアのボスにのしあがっていく物語。舞台は、ボストンから、フロリダ州Tampa、そしてCubaに展開します。
恋人や父親との関係、仲間やボスへの複雑な感情が、ちょっとした表情や体の動き、視線などを用いて、深く描写されます。名文家の誉れ高いLehaneですが、文章は暗喩に満ち、情感たっぷりに人間の心の奥底をえぐり、ギャングの会話は恐ろしげに直接的でなく、相当に読みにくいです。しかし、名文であることは私にもわかり、実力不足を痛感するとともに、なんか悔しいです。
(クリント イーストウッドが監督した、Mystic Riverの作者です)

Red Sparrow:
元CIAのエージェントが、SVR(前身はKGB)とCIAの諜報戦を描いた、臨場感あふれるスパイ小説。主人公は、美人のロシアのスパイ。家族を守るために、ハニートラップ要員(Red Sparrow)に育成されます。
CIAとSVRのスパイの間で、追跡劇ありハニートラップあり二重スパイありの、重厚な展開です。007やミッションインポッシブルのような超人間的スーパーヒーローが現れないところが臨場感を高めています。
作者は33年間CIAエージェントを務めた新人。語彙レベルは相当に高いですが、文章は報告書のように明快で、文句なく面白いです。

【エドガー賞の傾向】
以下、受賞作6作、最終候補2冊から、エドガー賞はどんなものか、無理やり、傾向をひねり出してみました。

・文学性重視
スピード感あふれる展開を必ずしも要求しているわけではなく、キャラクターの内面を深く描き出す小説が選ばれるようです。Ordinary Graceのような、ひたすら少年の内面の成長を静謐に描くような作編が、非常に高く評価されるのも、うなずけます。Live by Nightも、同様のくくりでしょう。
しかし、相当に幅広いことは間違いなく、受賞作品を続けて読んでも、同じような作品ばかり読む可能性は小さいでしょう。

・アダルト度はマイルト
性的な話題や描写は、ほとんどの作品にあります。しかし、マイルドで、女性にも十分におすすめできる作品ばかりです。
Mo Hayderは、持ち味の猟奇・残酷描写を相当に抑えて、Goneで、栄冠に輝きました。
Red Sparrowは、ロシアのハニートラップ要員が主人公で、性的話題も登場しますが、美人スパイ、ハニートラップもの、と期待して読むと、まったく期待外れの、権謀術策や国家的陰謀を中心に据えた、重厚な小説です。

・複雑な構造、実験的小説は、それだけでは評価されない。
上記の作品の中で、Gone Girlが、もっとも斬新で複雑の構造の小説ですが、賞を逃しました。同年に受賞した、Live by Nightに比較すると、相当に精巧に構成された、斬新な形式のホラーで、傑作と思いますが、いかんせん読後感が最悪でした(それが作者の狙いですが)。もっとも、LehaneのLive by Nightは、候補になった時点から、確実、とのうわさがあったのも事実です。
The Serialistも、形式としては斬新なのですが、ちょっと形式倒れで、選に漏れたのはうなずけます。
The Luminaries (Eleanor Catton)が、審査員も混乱させるような複雑な構造を持ちながら(あるいは、複雑な構造ゆえに)ブッカー賞を受賞したことを考えると、傾向の違いがみられます。

・英文のレベルは?
正直、語彙レベルはまちまちですが、非常に読みやすい小説が受賞していることには、注目していいかと思います。
Ordinary Grace (Kent Kleuger)と、The Lock Artist (Steve Hamilton)は、ともに、Native大人向けの洋書では、もっとも読みやすい部類でしょう。
Red Sparrow は、政治的語彙、電報のような省略形、俗語がひんぱんに現れますが、地の文は報告書のように生硬で、TIMEなどを読みなれた読者には、かえって読みやすいかもしれません。
私は、どうも、英国の作家のもの、たとえばMo Hayderの作品のほうが読みにくいようです。そして、名文家のほまれ高く、情緒的で、情感を深く描きこむ、Lehaneの作品は、やはり難しいです。名文であることは、私にもわかります。深く味わえるようになりたいものです。

・はずれなし?
上記8冊のうち、6冊は、非常に堪能しました。The Wicked GirlsとSerialistは、いまいちだったかな。もっとも、Serialistは受賞していませんが、日本では、上川隆也主演の映画(二流小説家・シリアリスト)で人気作品になりました。
しかし、読むものに迷ったら、とりあえずEdger賞がらみのものを読む、という方向で、大きく外すことはないと思われます。


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13117. Re: 多読1周年&400万語通過おめでとうございます

お名前: 柊
投稿日: 2014/10/24(10:46)

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"wkempff"さんは[url:kb:13115]で書きました:

wkempffさん、こんにちは。柊です。

〉多読を開始して約1年、ようやく400万語に到達しました。

多読開始1周年と400万語通過おめでとうございます。かなり速いスピードですね。

〉350万語〜400万語の間は、エドガー賞受賞作品を集中して読みましたが、最後に読んだ、Dennis LehaneのLive by Nightに思いのほか時間がかかりました。

それも、ずいぶん難しそうなものに挑戦されているようで。私はエドガー賞はDavid Handlerしか読んだことがないのでよくわかりませんが。

ちょっきん。

〉★とにかく長かった作品
〉The Luminaries, Eleanor Catton著 27万3千語
〉11/22/63、Steven King著 27万語

確かに長いですね。そりゃあ、読みにくかったでしょう。

〉★とにかく読みにくかった作品
〉The Luminaries, Eleanor Catton著:ブッカー賞審査員も混乱させる複雑怪奇な長編。
〉Live by Night, Dennis Lehane著:暗喩に富み人間の心をえぐる情緒的名文。

暗喩に名文ですか。それは読みにくそうですね。

〉●英語力の変化
〉【語彙力】
〉ほんの少し、上がった。なんとなく、わからない単語が減少してきたように思います。もちろん、作家の文体や作風に強く依存します。だいたい、鳥頭なので、何度調べても覚えない単語、というのが出てくるんですよね。これ、相当にフラストレーションたまります。

一度で覚える単語と、そうでない単語というのはありますね。人間の記憶は野生動物の時の「命に関わるかどうか」で覚えるかどうかを仕分けしているらしいので、その作品の中で中で重要かどうか、かなにかで決まっているのではないでしょうか。

私の祖父がアルツハイマーでかなり進んだ頃、祖父の好きな寺尾関改めしころ山親方の弟子の豊真将関が出てきたので、「寺尾の弟子」と十回ぐらい教えましたが、結局覚えてくれませんでした。一方、「豊真将は私のひいき」というのは一度で覚えてくれました。記憶の優先度ってすごいです。

何が言いたいのかわからなくなってきましたが、覚えられないからといってあまり気になさらなくても、良いのでは? どうしても覚えたいというのであれば、池谷先生の「受験脳の作り方」がお薦めです。

〉【読むスピード】
〉かえって落ちてきた。わからない単語が少なってきたせいか、なんとなく、読み飛ばせなくなってきました。それで、頻繁に辞書を引いたり、よくわからないところを読み返したりして、決して、読書スピードは上がっていません。150WPM〜200WPMの低位安定と思われます。

却ってスピードが落ちる時期というのはありますね。私は英語のあと、フランス語とスペイン語でも経験しました。理解が深まったときに起きました。その後、とんでもなく速くなりましたから、大丈夫だと思いますよ。

〉【リスニング】
〉徐々に上がってきた。AFNなら、ゆっくり聞こえるようになってきました。映画は、まだまだ、ですね。

私はリスニングがあまりできていないのでうらやましいです。映画は、あまりクリアな音声じゃないですからね。

〉【読解力】
〉上がった、らしい。。。。

実感できれば心強いですね。

〉たいていの現代小説は、アバウトな読み方でよければ、読み通せる自信がついた、というのは、大きいかな、と思います。

それは相当な実力なのでは?

〉しかし、最後に読んだ、Dennis Lehaneの、Live by Nigtは、非常に苦労しました。
〉超難解な、Eleanor CattonのThe Luminariesは、覚悟の上で読んでいますし、ビクトリア風の、ややこしくもってまわった表現を楽しんでいるところもあるんですね。Live by Nightは、あまり難解と予測しなかっただけに、名文をスムーズに読めず、実力不足を思い知らされました。

歴史物は歴史的背景もありますから、それで難しかったのかもしれませんね。伏兵は、警戒していないだけにショックが大きいですよね。

〉稀代の名文家であり、人の心の奥をえぐるような小説を書くLehaneですが、今回のものは、前に読んだMystic Riverより、大変でした。このくらいのものを、文章を味わいながら、ちゃんと読めるようにならないといけないですね。

すぐに味わいながら読めるようになりますよ。この調子なら。

〉ここのところ、エドガー賞受賞作品を集中して読んだので、エドガー賞について、もう一本、記事を書かせてください。

そちらの記事も読んでみましたが、感情的に引き込まれる推理小説の苦手な私には、向かなそうです。なぜか、シリアリストだけ間違えて買って持っていましたが。何かと間違えて買ったんですよね、多分。念のために聞きますが、怖い話ですか? 怖かったら手放そうと思うんですが。

最後リクエストになってしまいましたが、ともあれ、1周年で400万語通過というスピード通過、おめでとうございます。私も今なら根性入れれば1年で400万語読めると思いますが、1周年でというのがすごいですね。


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13118. 柊様、コメントありがとうございます。

お名前: wkempff
投稿日: 2014/10/25(15:35)

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柊様

コメントをありがとうございます。

たいへん励まされました。

英文を読む速度が上がらない、むしろ遅くなる、という現象は、私だけではないのですね。非常に安心しました。
まだまだ、集中力が途切れると理解できなくなるレベルなので、さらに精進します。

さて、ご質問いただいた、The Serialistですが、べつに怖くもなんともないです。
ただ、おすすめかというと。。。。。
相当に猟奇的な女性連続殺人事件がテーマで、主人公の売れない小説家が巻き込まれていく話です。しかしながら、グロいとは思っても、記述が平板で、ちっとも怖くない。謎解きも凡庸です。
しいて言えば、立派な学歴に似合わず、偽名でポルノや吸血鬼小説を書いて糊口をしのいでいる主人公のペーソスや、これに絡んでくる勝気な女子高校生やストリッパーとの不思議な関係がみどころでしょうか。
作中に、主人公の数血鬼小説など挿入されますが、べつに、重要な伏線になるわけでもありません。そして、文体。関係代名詞、接続詞、カンマ、コロンなどを多用し、ずるずると長い文なんですね。一文300語超え、などもあります。だらだらしているだけで、名文とも思えません。

ということで、まあ、捨てるよりは、ちょっと読んでみたほうが、という程度です。

それよりも、Ordinary GraceやSycamore Rowなどをぜひお読みください。The Luminariesも、いいかと思います。

ひとつだけコメントしますと、読みにくかった、と書いた、The Luminariesは、ニュージーランドのゴールドラッシュ、という背景知識のない舞台設定、ヴィクトリア朝の英文を模した大仰で過剰装飾の文体、に加え、複雑で斬新な構造に挑戦する、という、実験小説のような側面もあります。
下記、2013年度のブッカー賞を受賞した直後の、イギリスの書評です。
A ship made of matchsticks in a bottle is a feat of construction but not necessarily a great work of art.
The Luminaries sold 2,970 copies after being Booker shortlisted. Since winning, Catton’s publisher, Granta, has printed 100,000 more. How many of those that are bought will be read to the end? One out of 10?
超、意訳すると、「複雑ならいいっちゅうもんじゃないんだよ。ブッカー賞に調子こいて10万部も増刷したけれど、大丈夫なのかね。買っても、10人に一人も、最後まで行かないよ。」
でも、いい小説なんですよ。ぜひ、手に取ってみてください。幸い、まだ、大手の書店には並んでいます。


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