科学的教育グループ SEG

授業レポート

2017.10.03

中1英語

ストーリーテリングを通して自然に英文法の知識も身につく
『TPRSメソッド』を取り入れたネイティブ講師の授業

SEGの英語多読コースは、多読のプロ講師による個別読書指導・シャドーイング指導と、ネイティブ講師による授業の2つのパートに分かれている。ネイティブ講師の授業は、いわゆる英会話力の上達を目的としたものではない。『TPRSメソッド』という画期的な教授法が取り入れられており、英文法の知識も自然な形で身につくようになっている。どのようなスタイルの授業になっているのか。先生や生徒のコメントを交えながらレポートする。

自己紹介や英単語ゲームを通して積極的に発言できる雰囲気を作る

 見学したのは、連続5日間の夏期講習の4日目、中1英語多読Cクラスのネイティブパート。ネイティブ講師の授業だから、当然のようにオール・イングリッシュで進められる。日本語の解説は皆無だ。英語の勉強がスタートして半年足らずの生徒がついていけるのか、疑問に感じていたのだが、先生の言葉をしっかり理解し、質問に答えている姿に驚いた。

 ある男子生徒は

「先生はできるだけ簡単な単語だけを使って、ゆっくりと明瞭な発音で話してくださいます。ですから、僕は帰国生でもないし、小学校時代に特別な英語の勉強もしていなかったのですが、しばらくすると先生が何を話しているのか、分かるようになりました」

と語る。

 授業開始時刻は13時15分。この日は13名の生徒が集まった。授業を担当するMark先生は、出欠を取りながら一人ひとりに
“How are you?”と声をかけ、生徒たちは
“I’m fine. Thank you.”と明るく答える。

 Mark先生が大切にしているのは、クラスの雰囲気作りだ。

「お互いに仲間だという気持ちがなければ、安心して発言することはできません。そこで、いきなり本題に入るのではなく、授業の冒頭で多少時間を割いて、雰囲気を和ませ、積極的に発言できる気持ちが生まれるように心がけています。」(Mark先生)

 雰囲気作りの1つが自己紹介だ。2人の生徒がペアになって、約1分間、名前や住んでいる場所、夏休みにやりたいことなどを英語で語り合う。1分後にペアを変えて、また同じように自己紹介をする。これを毎回の授業で繰り返すため、ほとんどの生徒と会話することになり、仲間意識が生まれている。

自己紹介や英単語ゲームを通して積極的に発言できる雰囲気を作る
今日の英単語ゲーム

 5分ほど自己紹介をしあったのち、英単語ゲームが始まった。3~4人の生徒でチームを編成して、ポイントを競うもので、今日Mark先生がホワイトボードに書いたのは写真の図だ。円の上に『Food/Drink』、下に『City/Country』、左に『Sports/Jobs』、右に『Animal/Color』と書かれおり、円の真ん中にアルファベットが提示される。チームの代表者が交替で起立し、たとえばMark先生が『Jobs』を指したら、提示されたアルファベットを頭文字とする職業を答えるゲームだ。

 興味深いのは、挙手する際の合言葉を決めること。この日は“Black rabbit”に決まった。生徒たちによると「黙って手を挙げるよりも、合言葉があると、不思議なことに気分がのってきます」とのことだった。

 女子生徒の一人は、この英単語ゲームのメリットを

「自分の知らない単語がどんどん出てきて刺激になります。自然にボキャブラリーが増えます」

と語る。たとえば、Gの『Country』で“Germany.(ドイツ)”の答が出たときには「あっ、そうか。自分も知っていた」という反応だったが、“Greece.(ギリシャ)”と答えた生徒には「おおっ」とどよめきが起きた。また、Aの『Drink』はなかなか答が出なかったが、しばらくして男子生徒がうれしそうに“Black rabbit!”と叫び、“AQUARIUS!”と答えて、皆が大爆笑。そんな気の利いた答には、Mark先生から“Nice.”と声がかかる。

  • “Black rabbit!”
  • “Black rabbit!”

“Black rabbit!”

皆でアイデアを出し合ってストーリーテリングする中で、楽しく英語が学べる

皆でアイデアを出し合ってストーリーテリングする中で、楽しく英語が学べる
皆でストーリーを作っていく

 こうして自己紹介と英単語ゲームで雰囲気が和んだところで、Mark先生がホワイトボードに2つの絵を貼り出した。1つは、授業の後半で扱う映像『ウォレスとグルミット』の1シーン。もう1つは、パンダの親子がバイクとサイドカーに乗っているイラストだ。この2つの絵は、これまでの授業で取り上げられたものであり、Mark先生から「これは誰?」「パンダはどこに行こうとしているのか」といった登場人物に関する質問が生徒に投げかけられる。

 実は、今回の授業はこのパンダのイラストをメインの素材として展開されている。そこで用いられているのが『TPRSメソッド』である。1990年代にカリフォルニアの高校のスペイン語教師ブレイン・レイが開発したメソッドで、外国語を学ぶ最適な方法として注目されている。絵や写真、映像などを見て、生徒と教師が一緒にストーリーテリングする中で、外国語を学んでいくという手法だ。

 『TPRSメソッド』にはいくつかのメリットがある。

「皆でアイデアを出し合って、自由に物語を作っていける。とてもわくわくする」

と、男子生徒は語る。実際、生徒たちの柔軟な発想には目を見張るものがある。Mark先生からの質問で、前回までの授業のおさらいをしたときに、「パンダの親子は湘南に向かい、そこでmysteriousなmachineを見つけた」という生徒たちの答に面食らった。これまでの3日間の授業を受けていなかった記者には、なぜそんな話になっているのか、さっぱり分からなかったからだ。後から、前日までの授業で生徒たちがアイデアを出し合って、そういうストーリーが共有されていることを知った。わずか1枚のイラストからそんな突飛なストーリーが考え出せるのも、中学生ならではのことといえるかもしれない。明日5日目の授業では、物語を完結させる予定で、一体どんな結末を迎えるのか楽しみだ。

多くの文脈の中で、その日習得をめざす文法を繰り返し提供する

 『TPRSメソッド』が優れているのは、単にストーリーテリングを楽しむだけで終わるような内容ではないことだ。重要な文法事項もあわせて身につけられるように配慮されているのである。

「ある程度文法知識が備わっている高校生対象の授業の場合は、ストーリーテリングに専念することもありますが、中学生対象の授業では、その日覚えてほしいフレーズを決めています。けれど、そのフレーズを丸暗記させたり、理論的に説明したりしても、それだけでそのフレーズを使いこなせるようになるのは困難です。たくさんの文例を通して覚えるのが効果的です。物語を作りながら、講師はできるだけ多くの文脈の中で、その日のターゲットとなるフレーズを繰り返し提供します。そうすることで、そのフレーズが実際の英語の文脈の中でどう使われるのか、体得できるのです。」
(Mark先生)

 具体的にどのような方法が取られているのか。この日習得をめざすフレーズの1つがpass the time by doingだ。直訳すると「時を過ごす」だが、「暇をつぶす」といった意味合いが含まれる。

Pass the time by・・・
Pass the time by・・・

Pass the time by・・・
Pass the time by・・・

considering・・・
considering・・・

 そのニュアンスを感じてもらうためにMark先生が選んだのが、電車の中でスマホに熱中している人々と、眠り込んでいる人の2枚の写真だ。ここで
“Pass the time by using a smartphone.”
“Pass the time by sleeping.”
のフレーズを生徒から引き出す。次いで、
“Do you sometimes pass the time by sleeping?”
と聞き、Mark先生が自分を指差して“Yes, I do.”というと、生徒の一人が“Always!”と声を張り上げた。時々ではなくて電車の中ではいつも眠っているよ、というわけだ。

 さらに、生徒たちに
“How do you pass the time in the morning?”
と問いかけ、
“Reading a book.”
“Talking with friends.”
などの答が出てきた。ちょっと答に詰まっている生徒にはいくつかの例をあげて、それを参考にして“Think.”と、考えるように促すと、何とその生徒は“Thinking.”と回答。考え事をして過ごしているとの答に、“Very nice.”と先生が手を叩いた。

 その上で、先のパンダのイラストに戻り、パンダの親子はバイクとサイドカーに乗りながら、どうやって時を過ごしているのかを想像させる。
“Eating candy.”
“Talking.”
などの答が返ってくる。様々な文脈の中でpass the time byの使い方が分かり、これだけの文例に接することで、pass the time byの後には、必ずingがつくことも自然に体得できるわけだ。

 面白かったのは、candyの答に満足せずMark先生が
“Many kinds of candy or one kind of candy? ”
と質問を続けたこと。中学1年生だから、まだ単純な答になるのは当たり前。こうして先生に質問を重ねられることで、以前に授業で学んだkinds of ~の使い方を思い出し、答を工夫するようになっていく。

 同様に、Mark先生は“Talking.”と答えた生徒に、
“Talking about what?”(何について話しているのか)
と突っ込む。その生徒は迷いながらも
“Talking about money.”
と答え、笑いを誘った。それを受けて、“Writing money.”とユニークな答が別の生徒から出る。すると先生は絵を描く場合には“Drawing money.”が正しいと教えながら、ホワイトボードにお金の絵を描き、教室はさらに大きな笑いに包まれた。

 Mark先生は、生徒が間違った表現をしても絶対に「その答は違う」と否定することも、スルーすることもしない。それでは積極的に発言しようという意欲を失わせてしまうからだ。生徒の伝えたいことをくみ取り、その場で正しい表現に修正する。『TPRSメソッド』は生きている授業なのである。

 そのほか、この日のターゲットにしていたのは、considerとdecideの違い、使い分けである。湖を覗き込む男女の写真で
“They are considering jumping in the water.”、
高い崖の上からダイブする男性の写真で
“He decided to jump in the water.”
のフレーズが出された。こうしたフレーズは知識で暗記してもなかなか身につくものではない。写真という目に見える形だからこそ、意味合いの違いが実感できるといえよう。

  • さまざまな文脈の中で自然に文法を体得する

さまざまな文脈の中で自然に文法を体得する

アニメを楽しみながら、画面を頻繁に停止して質問が投げかけられる

 80分間のネイティブパートの最後の20分では、イギリスの人気アニメーション『ウォレスとグルミット』(Wallace and Gromit)を楽しんだ。自称天才発明家のウォレスと、ビーグル犬のグルミットが登場するアニメだ。

 ただし、単純に鑑賞するわけではない。Mark先生は途中で頻繁に画面をストップさせ、
“What is this?”
“What’s happening?”
と質問を飛ばす。自動販売機と思われていたものが、両手が飛び出して動き出すロボットだったり、次々に奇抜なシーンが登場するアニメだが、生徒たちは次に何が起こるのか、目を輝かせて見入り、自分が思いついた答を積極的に発言する。

 もちろん、Mark先生は生徒の反応を注視しており、すぐに答が返ってこない場合は質問を変えたり、ヒントを与えるなど、工夫を凝らしている。生徒たちは、自分の予想通りのシーンでは歓声をあげ、意外なシーンが展開されると驚きの表情を見せ、教室の中は大いに盛り上がっていた。

 ラスト3分は、もうMark先生が画面を停止することもなく、通しでアニメーションを視聴してユニークなストーリーを楽しみ、今日のネイティブパートは終了した。

 授業後、ある女子生徒は

「小さいころ海外で過ごし、帰国後も英語の勉強を続けていたのですが、中学受験のためにしばらく英語から離れていました。でも、将来英語は絶対必要だし、SEGの英語多読コースなら、読む力と、話す・聴く力の両方が高められると期待して、通うことにしました。多読の授業も、ネイティブの先生の授業も、とても楽しく学ぶことができます」

と、手応えを語ってくれた。