小林標著 ラテン語の世界 ローマが残した無限の遺産 中公新書 2006年(860円+税)を読もう

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2747. 小林標著 ラテン語の世界 ローマが残した無限の遺産 中公新書 2006年(860円+税)を読もう

お名前: 主観の新茶
投稿日: 2014/7/20(00:56)

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1 小林標著 ラテン語の世界 ローマが残した無限の遺産 中公新書 2006年(860円+税)

2 ラテン語は,生きている,これが,この本の主題である。

 ラテン語は,英語の語源にも,なっている。

 そのラテン語は,インド・ヨーロッパ語族の固有の言葉がある。

 それのみならず,ラテン語は,土着の基層語(地中海語,エトルリア語,ケルト語など近隣諸国の言葉)から取り入れた言葉がある。ラテン語は,傍層語のギリシア語から取り入れた言葉がある。

 ラテン語は,規則正しく整列し,形式と意味の厳密な関連性が認められるから,新しい言葉が創設可能である。

 ラテン語のなれの果ては,フランス語等のロマンス語である。

 ラテン語は,今述べたように,多数,英語の語源になっているが,英語になったラテン語には,ラテン語固有の言葉があるのみならず,基層語,ギリシア語などが,ラテン語を経由し,英語になったものがある。フランス語を経由し英語になったものがある。

 英語で新語を造る際に、直接ラテン語から取り入れた場合もある。

 英語は,これからも,新しい概念を創出する場合に,ラテン語の力を借りなければならない。

 著者は,そんなことが言いたかったに違いない。しかし,それ以外の知見も,満載だ。広く江湖に一読を薦める所以である。

3 以下の記述は,「英語のXの語源は,ラテン語のYである。」という文章が多いが,これは,私の知識の整理のためのみならず,読者が,この本を読む際の手助けになるからである。著者の知見の体系を知るためには,詳しくは,本文を読む他はないが,以下の記述には,著者の知見の一端を要約しているつもりもある。

はじめに

1 本書は,ラテン語の概略を示し,英語など現代語の理解に役立つことを目的とする。

2 英語のbinary「二進法の」の語源は,かなり人工的なラテン語のbinarius「2の」である。

3 英語のdigit「数字」の語源は,ラテン語のdigitus「指」である。

4 英語のbit「コンピュータの性能を表す単位」は,英語のbinary「二進法の」と,英語のdigit「数字」を一語に縮めた新語である。

第1 ラテン語と現代

1 ラテン語は,現代に生きているが,英語等の言語の中に,姿を隠している場合もあり,ラテン語を理解しないと,間違った理解をしたり,間違った表現をしたりしていることに気が付かない。

2 ロイヤル・ファミリーとインペリアル・ファミリー,又は,ロイヤル・ウエディングとインペリアル・ウエディングの使い分けは,わかるか。日本のマスコミは,日本の皇室について,日本の皇太子の結婚に際し,ロイヤル・ファミリー,ロイヤル・ウエディングを使用したが,間違っている。外国のマスコミは,正しく,インペリアル・ファミリー,インペリアル・ウエディングを使用していた。(投稿者注)ロイヤルとインペリアルの相違に関する,似たような記述は,既に別の文献で読んだ記憶があるが,今は,当該文献を特定できない。

3 英語のemperor「君主」の語源は,ラテン語のimperator「軍事司令官」<(形)imperialis(英)imperialである。

4 英語のroyal「王の」,regal「王らしい」の語源は,ラテン語のregalis「王の」<名詞rex(王)である。
  なお,regius。rex,regis,regi,regem,rege,reges,regum,regibus,reges,regibus

5 英語のrepublic「共和制」の語源は,ラテン語のres publica「共和制」<publicus,-a,-umである。
  res,rei,rei,rem,re,res,rerum,rebus,res,rebus

6 英語のpeople「人々,国民」の語源は,ラテン語のpopulus「民衆」である。

7 英語のprince「王子,侯爵」の語源は,ラテン語のprinceps「同等の中の第一人者」である。

8 英語のreign「統治」の語源は,ラテン語のregnum「王国」である。

9 英語のempire「帝国」の語源は,ラテン語のimperium「大権」である。

10 英語の「and」は,ラテン語の「et」に相当する。

11 英語のcomputer「計算係→計算する機械→電子計算機」の語源は,古フランス語のcomputer「計算する」を経由し,ラテン語のcomputare=com+putare「枝を剪定して,きれいにする→数を数える→考察する」である。

12 英語のvirus「ウイルス」の語源は,ラテン語のvirus「毒」である。

13 英語のsenior「上の,年上の」の語源は,ラテン語のsenior「senex(老いた)という形容詞の比較級にすぎないから,ラテン語の辞書には,載らない」である。

14 英語のsure「確かな」(フランス語経由)及びsecure「確実な」(ラテン語を人為的に直接取入)の語源は,ラテン語のsecurus「危なげのない」である。

15 英語のchamber「部屋」とcamera(カメラ)は,前者は,フランス語を経由した,後者は,ラテン語を人為的に直接取入れたラテン語が語源である。

16 英語のabridge「縮める」とabbreviate(短くする)は,前者は,フランス語を経由した,後者は,ラテン語を人為的に直接取入れたラテン語が語源である。

17 英語のfrail「か弱い」とfragile(壊れやすい)は,前者は,フランス語を経由した,後者は,ラテン語を人為的に直接取入れたラテン語が語源である。

18 英語のroyal「王の」とregal(王らしい)は,前者は,フランス語を経由した,後者は,ラテン語を人為的に直接取入れたラテン語が語源である。

19 英語のjoke「冗談」の語源は,ラテン語のiocum「ヨクムと発音」である。

20 iは,母音[i]と子音[j]の双方の音価を有した。そのどちらであるかは,その都度,判断するほかない。iの下を伸ばし,jの文字を創出したのは,10世紀以降の中世ヨーロッパになってからである。

21 vは,母音[u]と子音[v]の双方の音価を有した。そのどちらであるかは,その都度,判断するほかない。母音[u]にvを割り当てることは,現在も行われている。(投稿者注)たとえば,ブランドのブルガリBVLGARIは,uの代わりに,vを使用しているが如きである。

22 英語のletter「手紙,文字」の語源は,ラテン語のlittera「文字」である(エトルリア語を介しギリシア語diphtheraを取り入れる)。

第2 世界の中のラテン語

1 ラテン語は,印欧語族(Indo-European languages)に所属する。

2 最も古いラテン語は,紀元前7世紀,葡萄酒の壺に彫られた「SALVETOD TITA」(ティタよ,健在なれ)である。もっと古いとされるが,贋作論争があるのは,1871年に発見された黄金製の留め金に彫られた「MANIOS : MED : FHE : FHAKED : NUMASIOI」,古典ラテン語に直せば,Manius me fecit Numerio(マニオスは,ヌメリウスのために,私<留め金のこと>を作った)である。

3 前5世紀に書かれたローマの最初の法律書「十二表法」は,断片が残るのみであるが,裁判の開始について,Si in ius vocat , ito. Ni it , antestamino. Igitur em capio と記載されている。このラテン語の模範は,ギリシア語であった。

4 英語のmajorとラテン語のmaiorは,印欧語族の言語として同根である。

5 ラテン語は,元来,農民の言語である。抽象的な意味のラテン語は,具体的な意味の農民のラテン語の言葉から抽象化され出現している。

6 英語のrival「ライバル」の語源は,ラテン語のrivalis「同じ川から水を引く農民」である。農民の言語ラテン語。

7 英語のculture「文化」の語源は,ラテン語のcultura<colere「畑を耕す」である。農民の言語ラテン語。

8 英語のpecunia「財産,金」の語源は,ラテン語のpecus「家畜」である。農民の言語ラテン語。

9 英語のfelicity「幸福」の語源は,ラテン語のfelix「多産な」「幸福な」である。農民の言語ラテン語。

10 英語のegregious「とりわけ優れた」の語源は,ラテン語のegregius「家畜の群れの中から,選りすぐられた」である。農民の言語ラテン語。

第3 ラテン語文法概説

1 ラテン語は,名詞,形容詞,代名詞,動詞は,語形変化する。英語の動詞単数形にsを付加し,名詞複数形に,sを付加する程度の語形変化の少なさの比ではない。しかし,語形変化は,ラテン語の本質的な難しさではない。(投稿者注)ラテン語の難しさは,(1)ローマ時代の文化を知っていなければ理解できない部分があること,(2)書き手によって,語彙の意味の相対性があること,(3)論理明晰な言語であるとはいえ,なお,一義的に解し得ない文章も存在することなどであろう。

2 ラテン語の語形変化の一つ一つの具現(又はその総和)を「形式」と呼称すると,個々の単語の形式の相違が,意味の相違を具現する。大まかにいえば,語尾変化が少しでも違えば,意味も違ってくる。形式特有の意味が付着する。「形式の意味の論理的関係」が認められる。形式と意味に論理的関係(論理的関連性)がある。(投稿者注)語形変化の全体は,すこぶる多岐であり,かつ整然としているとはいえ,一つの形式は,日本語に訳すときは,複数の意味,すなわち複数の助詞を取る場合があるし,ラテン語の名詞の複数形の与格と奪格のように,同一形であるため,日本語に訳すときには,それぞれ,与格(間接目的語の「〜に」など)や奪格(原因理由の「ため」など)に,適宜置き換えて,意味を取ることとなる場合がある。

3 再説すると,ラテン語文法の特徴は,「数式の行列」に見間違うほどの「整然たる論理性」が存在することであり,単語の語尾変化等の変化を「形式」と命名すると,「形式と意味の間の論理的関係性が認められること」である。逆に言えば,「変化形の多彩さ」は,覚えてしまえば,自動的に,「意味の明晰さ」を保証するに近い。

4 ラテン語は,単語そのものの語尾などの語形の変化が,意味の変化を指示する。すなわち,「屈折語」である。屈折とは,語尾等の語形変化を意味する。日本語は,膠着語である。助詞的な要素を糊のようにくっつける。日本語は,「糊付け言語」である。日本語は,名詞の場合,「てにをは」を付けるので,膠着語と理解できる。動詞の変化は,一見,ラテン語と同じく,動詞自体の語尾変化のように受け取る人もいるかもしれないが,間違っている。日本語の動詞の変化は,動詞の活用に,助詞などの付加語が膠着しているにすぎず,屈折とは異なると理解されている。言語は,屈折語,膠着語,孤立語,抱合語に4分類するのが,一応便宜である。

5 英語は,それ自体には,「形式と意味の間の論理的関係性が認められること」はなく,あたかも相互関連のない玩具をバラバラにおもちゃ箱に放り込むようなものであって,ラテン語まで戻らなければ,「形式と意味の間の論理的関係性が認められること」が見えない。

6 フランス語は,ラテン語の子孫であるから,多少,「形式と意味の間の論理的関係性が認められること」を残すが,全く不十分である。

7 英語は,語順が意味を拘束する。ラテン語は,語順に拘束されない。語順を変えても,意味は,変わらない。日本語も,ある程度,語順を変えても,意味は,変わらない。

8 現在の日本語の品詞分類,文法は,英語の文法に負う。英語の文法は,ラテン語の文法に負う。ラテン語の文法は,ギリシア文法に負う。結局,日本の現在の文法は,紀元前1世紀のギリシア文法の真似をしているのである。

9 日本は,明治7年に,はじめて,「品詞」という概念を輸入した。品詞は,英語では,parts of speechであり,ラテン語では,parts orationisであり,ギリシア語では,mere logouである。

10 (投稿者注)私は,日本語の品詞分類を嚆矢とする現在の文法の概念は,根本的に,変更すべきであると思っている。「私は,基本的には,日本の文法は,今日では,西欧の文法では,まかない得ない部分は,無視できないほど,大きいと思う。」という文章の場合,「は」の部分は,「主語」というよりも、「主張の主体」ないし「主題」ともいうべき文法的概念であると思われる。「日本の文法は,基本的に,今日,西欧の文法で,まかない得ない部分が,無視できないほど,大きいと思われる。」と言い換えた場合と比較してみよう。「私は」の付加,「基本的には」の「は」の付加,「今日では」の「は」の付加,「西欧の文法では」の「は」の付加,「まかない得ない部分は」の「は」から「が」への変更,「思う」の「思われる」への変更等の意義は,西欧の文法では,説明できないと考える。また,「私は,あなたが好きだ」という場合,英語は,loveやlikeという動詞を使用するが,日本語の「好きだ」は,動詞ではない。さらに,英語のbe動詞の使用法は,日本語の「である」「でいる」の使用法と不一致な場合が,無視できないほど,すこぶる多い。したがって,「動詞verb」という概念すら,輸入する必要はなく,別の概念で処理できたら良いし,というよりも,別の概念で処理すべきであると考える。日本語の新たな言語体系(文法)の再生は,西欧文法に拘束されないものであることは,もちろんであるが,どうやって新たな日本語の言語体系を考案するかといえば,江戸時代以前の言語体系及びその論説を渉猟し,新たに考案すべきことになろう。私は,もとより,言語体系の考案とは,全く別の職業であるから,新たな日本語の言語体系を創出する力量はないが,将来,言語体系の考案に秀でた日本人が,新たな言語体系の説明を世に出したときに,少なくとも,これを支持できるだけの器量を養っておきたい。外国語を勉強することは,自国の言葉との相違(発想という内面,言い回しという外面の相違など)を学ぶことになり,振り返れば,自ずと自国の言葉及び思想を勉強することにもなるのであって,文章を書くことが職業の重要な一端である人は,自分の文章の器量を良くするためだけでも,外国語を学ぶ意味があるといえる。

11 ギリシア文法は,紀元前1世紀,ディオニュシオス・トラクスという人が,8品詞に分類し定義した。実体詞(名詞と形容詞),動詞,分詞,代名詞,前置詞,副詞,接続詞,間投詞の8つである。ラテン語は,現在,9つの品詞に分類される。名詞,形容詞,動詞,代名詞,数詞,前置詞,副詞,接続詞,間投詞の9つである。

12 ラテン語の名詞,形容詞には,「性・数・格」の概念がある。

13 形容詞は,名詞の変化に,ほぼ類似した変化をする。

14 英語の名詞には,「数」について,そのままラテン語の変化形が使用されている場合がある。

15 英語の名詞のformula「公式」の不規則複数形は,ラテン語の複数形(主格)formulae(第1変化)である。

16 英語の名詞のfocus「焦点」の不規則複数形は,ラテン語の複数形(主格)fociである(第2変化)。

17 英語の名詞のdatum「データ」の不規則複数形は,ラテン語の複数形(主格)dataである(第2変化)。

18 英語の名詞のaxis「軸」の不規則複数形は,ラテン語の複数形(主格)axesである(第3変化)。

19 英語の名詞のspecies「種」の不規則複数形は,ラテン語の複数形(主格)speciesである(第3変化)。

20 英語の名詞のindex「索引」の不規則複数形は,ラテン語の複数形(主格)indexes(第3変化)である。

21 午後11時は,11p.m.(11時,超えた,正午を)である。p.m.11は,間違いである(超えた,正午11時という配置となり,意味をなさない)。post meridiem<dies,diei,diei,diem,die,dies,dierum,diebus,dies,diebus. cf.ante meridiem

22 英語のidentity「アイデンティティー」の語源は,ラテン語のidentitas「同一性」である。

23 英語の「who,which,what」は,ラテン語の「quis,quid」と同源である。

24 Ciceroは,ラテン語読みでは,キケロ(ー),英語読みでは,シセロとなる。

25 ラテン語の動詞の時制は,6種である。現在,未来,未完了過去,完了,過去完了,未来完了の6種である。

26 時制とは,時間であり,一般に,「過去,現在,未来」であるとされている。この時間の差異以外に,「継続」「完了」「進行」などの動作の区別がある。これは,「アスペクト」という名前が付けられている。したがって,ラテン語は,厳密には,時制とアスペクトが混在した形が,動詞の語尾変化に反映している。

27 ラテン語の「法」は,直説法,接続法,命令法の3種である。英語は,厳密には,「命令形」であって,命令法ではない。動詞の形式の相違がないからである。たとえば,ラテン語は,「あなたは見ている」は,「Vides」一語,「あなたは見るべきだ」は,「Vidas」一語,「見ろ」は,「Vide」一語である。形式が主語を拘束するから,通常,主語は,不要である。英語は,それぞれ,「You see」,「You should see」,「See」である。

28 ラテン語は,不定法という概念がある。それは,「使用によって,意味が決定できない,不定のものである」という趣旨である。英語は,to seeというような用法は,動詞の一変化にすぎず,意味は決定できるから,「不定法」ではなく,「不定詞」という概念である。

29 ラテン語の動詞は,4つの基本形がある。直説法能動態の現在一人称単数,不定詞,完了一人称単数,完了分詞の4つである。

30 ラテン語の動詞の全変化形は,第1に,4つの基本形の3番目である完了一人称単数は,直説法能動態の完了,過去完了,未来完了と,接続法能動態の完了,過去完了と,完了不定詞を導出し,第2に,4つの基本形の4番目である完了分詞は,今述べたうちの全ての受動態と,未来不定詞,未来分詞を導出し,第3に,これまで述べた分を除外した全ては,4つの基本形の1番目及び2番目である直説法能動態の現在一人称単数と不定詞の組み合わせで決まる。例外は,全くない。

31 代名詞は,日本語の「これ,それ,あれ」より精緻な体系を有し,「性・数・格」の変化は,形容詞の変化に類似した代名詞的変化を有する。

32 ラテン語の有名な格言の一つ,Senactus ipsa est morbus「年取ったこと自体,病気なんだよ」

33 英語のmood「法」の語源は,ラテン語のmodus「法」である。

第4 拡大するラテン語

1 英語の-chester「たとえば都市名Manchester,Rochester,Winchester」の語源は,ラテン語のcastrum「陣営,要塞」である。

2 英語のwineは,ラテン語のvinumを語源とするが,ラテン語のvinumは,元来は,地中海語であって,印欧語族の言語ではない。英語のwineとラテン語のvinumは,印欧語族して同根であると間違えてはいけない。印欧語族は,はちみつから酒を造ることを知っていたが,葡萄酒を知らなかった。(投稿者の注)英語のwordとラテン語のverbumならば,印欧語族して同根である。言葉という概念は,古くからあるからである。

3 英語のoilは,ラテン語のoleumを語源とするが,ラテン語のoleumは,元来は,地中海語であって,印欧語族の言語ではない。英語のoilとラテン語のoleumは,印欧語族して同根であると間違えてはいけない。

4 英語のplumb「鉛錐」,plumber「鉛管工」の語源は,ラテン語のplumbum「鉛」である(基層語を経由。なお,ギリシア語molybdos)。

5 英語のrose「バラ」の語源は,ラテン語のrasa「バラ」である(ラテン語固有の言葉ではなく,基層語由来でラテン語となった)。

6 英語のlily「ゆり」の語源は,ラテン語のlilium「ゆり」である(ラテン語固有の言葉ではなく,基層語由来でラテン語となった)。

7 英語のfig「いちじく」の語源は,ラテン語のficus「いちじく」である(ラテン語固有の言葉ではなく,基層語由来でラテン語となった)。

8 英語のcypress「糸杉」の語源は,ラテン語のcupressus「糸杉」である(ラテン語固有の言葉ではなく,基層語由来でラテン語となった)。

9 ラテン語のcarrusは,ケルト語経由のラテン語で,英語のcar「車」,charge「義務,責任」,chariot「戦車」を産み出した。

10 ラテン語のcarpentum「二輪の荷車」は,ケルト語経由のラテン語で,英語のcarpenter「荷車作り→家具職人」を産み出した。

11 ラテン語のgladius「短剣」は,ケルト語経由のラテン語で,英語のgladius「短剣」を産み出した。

12 ラテン語のgladiolus「花の名前グラジオラス,接尾辞-oulusは,ラテン語の指小辞形」は,ケルト語経由のラテン語で,英語のgladiolus「花の名前グラジオラス」を産み出した。

13 ラテン語のlancea「槍」は,ケルト語経由のラテン語で,英語のlance「槍」を産み出した。

14 ラテン語のsapo「髪の染料」は,ケルト語経由のラテン語で,フランス語のsavon,和製英語のシャボンを産み出した。

15 ラテン語のcervesia「ビールの一種」は,ケルト語経由のラテン語で,スペイン語のcerveza「ビールの一種」を産み出した。

16 英語のmechanic「機械」の語源は,ギリシア語のマキナであるが,英語のmachine「機械」の語源は,ラテン語のmachina「機械」である。

17 英語は,基層語を,substratum,上層語を,superstratum,傍層語を,adstratumという。基層語とは,ローマ人が入植する前から存在した,入植地近辺の民族の言葉である。基層語から見ると,ラテン語は,上層語に該当する。上層語は,成立したラテン語に上から影響を与えた言葉である。ゲルマン語は,ラテン語の上層語に該当する。

18 ギリシア語は,ラテン語にとって,基層語でも上層語でもなく,傍層語である。傍層語とは,比較的近くにあって,長期間,影響を与える言語である。日本語にとって,かつて中国語が傍層語であったが,今は,英語が傍層語である。

19 英語のgrammar「文法」の語源は,ラテン語のgrammatica「文法」である(傍層語ギリシア語が原語)。

20 英語のphilosophy「哲学」の語源は,ラテン語のphilosophia「哲学」である(傍層語ギリシア語が原語)。

21 英語のrhetoric「レトリック」の語源は,ラテン語のrhetorica「弁論術」である(傍層語ギリシア語が原語)。

22 英語のarchitect「建築家」の語源は,ラテン語のarchitectus「建築家」である(傍層語ギリシア語が原語)。

23 英語のtragedy「悲劇」の語源は,ラテン語のtragoedia「悲劇」である(傍層語ギリシア語が原語)。

24 英語のcomedy「喜劇」の語源は,ラテン語のcomoedia「喜劇」である(傍層語ギリシア語が原語)。

25 英語のpoem「詩」の語源は,ラテン語のpoema「詩」である(傍層語ギリシア語が原語)。

26 英語のgoverner「知事」の語源は,ラテン語のgubenmator「水先案内人」である(ギリシア語kybernan「船を導く」を借用。ローマの庶民の言葉)。

27 英語のanchor「錨」の語源は,ラテン語のancora「錨」である(ギリシア語ankyraを借用。ローマの庶民の言葉)。

28 英語のpunish「罰する」の語源は,ラテン語のpunire「罰する」<poena罰である(ギリシア語を借用。ローマの庶民の言葉)。

29 英語のtiger「虎」の語源は,ラテン語のtigre「虎」である(ギリシア語経由)。

30 英語のlion「ライオン」の語源は,ラテン語のleo「ライオン」である(ギリシア語経由)。

31 英語のdolphin「イルカ」の語源は,ラテン語のdelphinus「イルカ」である(ギリシア語経由)。

32 英語のelephant「ゾウ」の語源は,ラテン語のelephantus「ゾウ」である(ギリシア語経由)。

33 英語のMuse「女神」の語源は,ラテン語のMusa「女神」である。これは,ローマの神ではなく,ギリシアの神である(文化人によるギリシア語経由)。

34 英語のmusic「音楽」の語源は,ラテン語のmusica「音楽」である。元々は,ギリシア語のmusike「ムーアの術」である(文化人によるギリシア語経由)。

35 ラテン語のag-というたった一つの語根「前に駆り立てる。押すの意」から,体系的相互関係が存在する,多数のラテン語の言葉が産まれている。

36 これが英語になると,

actress,act,agitation,agitate,agile,agent,agency,agenda等の単語は,

互いに「形式と意味の厳格な関係性(形式と意味の関係の論理性)」,「整然とした系統的あるいは階層的な関係性」,「構造及び形式性に内在する論理的体系性」といった内容を有するとは,見抜けない。

 しかし,ラテン語をやれば,これを見抜くことができる。

37 ag-⇒agere, actum(act,acts), agens(agent)
   語根  不定詞  完了分詞   現在分詞

    ⇒actio(action), actor(actor), agmen(agminate)
    名詞      名詞      名詞

    ⇒agilis(agile) ⇒agilitas(agility)
     形容詞      名詞

    ⇒agitare(agitate) ⇒agitatio(agitation), agitator
                        (agitator),agitabilis
    動詞        名詞         名詞
                         形容詞

   ⇒ actus ⇒actuosus
     名詞   形容詞
         ⇒actualis(actual)  ⇒acutualitas(actuality)
         (中世派生)形容詞    (中世派生)名詞

   ⇒ activus(active)  ⇒activitas(activity)
     (後期派生)形容詞    (中世派生)名詞

38 英語のact「行動(英語の場合act行動は,なされた結果を示す)」の語源は,ラテン語のactum「したこと(完了動詞)」である。

39 英語のagent「代理人(本人のために動く人である)」の語源は,ラテン語のagens「動かしている(現在能動分詞)」である。

40 (投稿者注)英語のagenda「課題(課題はこれからのことである)」の語源は,ラテン語のagendum「これから動かされるべきことがら(未来受動の意味の動形容詞)」である。

41 英語のagitate「アジる」の語源は,ラテン語のagitare「agito動かすの不定詞」である。

42 英語のactivity「活動」の語源は,ラテン語のactivus+-itas=activitas「活動」である。

43 英語のactual「現実の」の語源は,ラテン語のactus+-alis=actualis「現実の」である。

44 英語のactuality「現実」の語源は,ラテン語の actualis+-itas=actualitasる。

45 英語のreaction正しくはredaction「反応」の語源は,ラテン語のred+actio=redactio「減少」である。reは,母音の前で,redになる。たとえば,ラテン語のredigereは,red+agereである。

46 ニュートン(1642−1727)のプリンキピアは,有名なニュートンの物理法則が記載されている。

 原著は,ラテン語で書かれている。

 Philosophiae Naturalis Principia Mathematicaが正式名である。

 Philosophiae Naturalis Principia Mathematicaは,訳せば,「自然哲学の数学的諸原理」である。

 分析すると,(1)Philosophiae(名詞・第1変化・女性属格) (2)Naturalis(形容詞・第3変化・女性属格) (3)Principia(名詞・第2変化・中性複数主格) (4)Mathematica(形容詞・第1第2変化・中性複数主格)である。

 (2)の(1)の(4)の(3)の順に意味を取って,訳すことになる。

 ラテン語の格変化の体系が分かっていないと,正しい順番に意味を取ることができないから,正しい意味を理解できない。

47 英語の-iveは,ラテン語の「-ivus」から,英語の-alは,ラテン語の「-alis」から,英語の-ityは,ラテン語の「-itas」から,英語の-aryは,ラテン語の「-arius」から,英語の-ableは,ラテン語の「-abilis」から,英語の-itudeは,ラテン語の「-itudo」から,作られる。

48 ラテン語起源の接頭語は,re-は,「ふたたび,たびたび,逆方向へ」,sub-は,「下へ」,de-は,「分離」,e-,ex-は,「外へ」,con-は,「一緒に」,prae-,pre-は,「以前の」,multi-は,「多数の」,pro-は,「賛成する」,contra-は,「反対する」,anti-は,「反対する」,in-(im-,ig-)は,「反」,inter-,intro-は,「中,間」である。これらの接頭語は,英語で使用されている。

第5 ラテン語と文学

1 著者は,日本語の和歌などの文学は,元々庶民をも経由し専門家が詠んだもので,庶民性が残るという。これに対し,ギリシア文学は,突如,ホメロスという専門家が出現し,終始,専門家の手になる。ローマ文学は,ギリシア文学の模倣ないし移入に始まった。

2 日本語の韻律は,五七五などである。頭韻や脚韻は,あっても良いが,必須ないし必要ではない。古代の文学には,韻律が存在する。ギリシア文学にも,韻律がある。ラテン語の文学にも韻律がある。ラテン語の韻律は,たとえば,長短短(タンタタ),長長(タンタン)である。脚韻が,原則である。頭韻ではない。

第6 黄金時代の文学者

1 ラテン語の黄金時代とは,ラテン語が縦横無尽に表現され,後世に残ったことを意味する。

2 英語のreason「理由,理性」の語源は,ラテン語のratio「計算」である。

3 英語のart「芸術、技術,専門的能力」の語源は,ラテン語のars「手わざ,巧みさ」である。

4 カエサルのガリア戦記は,ラテン語「De Bello Gallio」である。

5 ヴエルギリウスの3作品は,牧歌「Bucolica」,農耕詩「Georgica」,アエネイス「Aeneis」である。

6 ホラティウスの代表作は,歌章「Carmina」,書簡詩,その第2巻の後半は,詩論「Ars Poetica」,風刺詩「Satura」である。

7 英語のmediocrity「中庸というより凡庸に変容」の語源は,ラテン語のmediocritas「中庸」である。

8 ホラティウスの歌章「Carmina」第2巻第10詩は,有名な黄金の中庸「aurea mediocritas」であり,人生の知恵は,中庸を得ることであると説く。auream quisque mediocritatem diligt , tutus caret obsoleti sordibus tecti , caret invidenda sorbius aula. 「それ,黄金の中庸を尊ぶものは,〜妬みとも無縁ならん。」という小林標氏の訳あり。

9 ホラティウスの歌章「Carmina」第1巻第4詩は,pollida Mors aequo pulsat pede pauperum tabernas regumque turris. 「貧者の陋屋,諸王の高殿〜死に神が〜戸を蹴る足に変わることなし」という小林標氏の訳あり。

10 ホラティウスの歌章「Carmina」第1巻第11詩は,有名なcarpe diem 「この日を掴め」がある。

11 英語のadmire「賛嘆する」の語源は,ラテン語のadmirare「賛嘆する」である。

12 ホラティウスの有名な教訓であるnil admirariは,「何事にも動ぜぬ心」である。

13 ホラティウスの書簡詩で有名な文章は,ローマのギリシアに対する政治的征服と,逆に,ギリシアのローマに対する文化的制服を,簡潔かつ詩的に描いたGraecia capta ferrum victorem cepit et artes intulit agresti Latina がある。

14 オウィディウスの代表作は,恋愛詩集「Amores」,恋愛指南「Ars Amatoria」,恋の療治「Remedia Amoris」,変身物語「Metamorphoses」などである。

15 カトゥッルスは,音節の長短を有するエレゲイア詩形で,恋愛詩を書いている。Odi et amo. quare id faciam fortasse requiris nescio, sed fieri sentio et excrucior.

第7 白銀時代の文学者

1 ラテン語の白銀時代とは,ラテン語の黄金時代に劣るが,なおラテン語の輝きを失わない表現が残った時代を意味する。

2 セネカ,ストア学派,懐疑主義,セネカ悲劇,小説サチュリコン,悪漢小説の走り,遺言演説,変身物語「黄金のロバ」などについて,説明している。

第8 ラテン語の言葉あれこれ

1 人間 homo

(1) 英語のhuman「人間的な」,humane「思いやりのある」の語源は,ラテン語のhumanusである。humanusの元は,ラテン語のhomo「人間」である。ラテン語のhumanusは,当初,「人間の」,「人間に関する」という形容詞にすぎなかったが,キケロが,「あるべき人間である」という意味に変更し,セネカが,「人間的な」の意味に変更して使用し,現代日本人の用法と同じになった。

(2) ラテン語のhomo「人間」は,ラテン語のhumus「土」と関連がある。

(3) 喜劇作家テレンティウスは,喜劇「自虐者」において,Homo sum. Humani nil a me alienum puto.という科白をものしている。

(4) 英語のbridegroomのgroomは,ラテン語のhumus「土」と同じ語源であるとされる。

(5) ヴェルギリウスの農耕詩に,gentis humilis「土の種族」という形容がある。

(6) ラテン語のhumilis=hum+ilis「土に近い」は,ラテン語のhumus「土」から派生した形容詞で,英語のhumble「低い,劣った,無価値な」の語源である。

(7) 英語のhumility「謙遜」の語源は,ラテン語のhumilisの名詞形humilitas=humil+itasである(人工的な造語法)。

(8) humanism「人道主義」は,近代ドイツ人が創作した疑似ラテン語humanismusに由来する。

(9) 英語のhuman,humble,humilityは,相互に関連性を認めることは,一般の英語話者には無理である(関連性が見えてこない。その結果,バラバラに覚えるはめになる)が,ラテン語のhomo,humanus,humus,humilitasを知っていれば,英語についても,一つの語根から系統だって発生した相互関連性を容易に認識できる。

(10) ラテン語は,「人間」の意味は,homoのほかに,mors「死」の派生語であるmortalis=mort+alis「神と違って,死すべき存在⇒人間」がある。

(11) 英語のmortal「死すべき」の語源は,ラテン語のmortalisである。

(12) 英語のman「男,人」の語源は,mind「心」と同系の「考えるもの」という印欧語であると解する説がある。

(13) 英語のmanの意味は,現在では,第1に,「成人の男」,第2に,男が代表して⇒「人」となるから,差別的ともいえる用語法である。これに対し,日本語の「人」,ラテン語の「homo」,ギリシア語の「anthoropos」は,人一般であって,男女を問わない。もっとも,英語のmanの意味は,昔は,人間一般とされ,その後,男に変化し,さらに,人一般に使用されるようになった。ドイツ語は,Mannは,「男」と「人」を表したので,「人」のみのMenschを創作したが,英語は,ついにドイツ語のMenschに相当する語を作り得なかった。そこで,英語は,現在,sportsman,fireman,cameraman,salesmanは,athlete,firefighter,photographer,sales clerkなどと言い換える羽目に陥っている。

2 男と女 vir et femina

(1) ラテン語は,男は,virとmassがあり,女は,feminaとmulierがある。

(2) feminaは,元来「生み出すもの」であり,英語のbe,been,ドイツ語の(ich)binと同じ語源を共有している。

(3) ラテン語のfemina「女」の形容詞は,feminine「女らしい」である。

(4) ラテン語のfeminine「女らしい」に-ismを付けて,femininismは,「女らしさの特質」であるが,縮まって誤用され,フェミニズムfeminismがまかり通っている。あたかも,narcissismナルキッシズムが,ナルシズムと短縮誤用して通用しているのと同じである。

(5) 英語の雌雄のfemaleとmaleは,femaleのfeが取れて,maleになったのではない。maleは,ラテン語mass「男」の形容詞masculus「男らしい」に由来する。

(6) 古英語のwer「男」の語源は,ラテン語のvir「男」である。

(7) 英語のwerwolf「狼男」の語源は,古英語のwerが残っている。

(8) 英語のworld「世界」の古い形は,wer-old「人の年月」である。

(9) 英語のvirtu「美徳」の語源は,ラテン語のvir「男」の派生名詞virtus「男らしさ,勇気,男の持つ美点」である。

3 心,精神,人格 animus anima persona

(1) 英語のperson「人」の語源は,ラテン語のpersona「原義は,俳優が舞台でかぶる仮面」である。ラテン語のpersonaは,ギリシア語,エトルリア語など外来語である可能性が高い。

(2) ラテン語のpersonaは,形容詞化すると,personatus「変装した」「偽りの」となる。

(3) ラテン語のanimus「アニムス,思考の主体,精神」は,ラテン語のanima「命の元としての息,魂」と対立する概念であり,かつ,corpus「肉体」と対立する概念である。

(4) 英語のamimal「動物」の語源は,ラテン語のamima「精神」+al「命を持ったもの⇒動物」である。

(5) 英語のanimation「動画」の語源は,ラテン語の抽象名詞animatio「命を吹き込むこと」<動詞animare「命を吹き込む」である。

(6) 英語のspirit「精神」,フランス語のesprit「精神」の語源は,ラテン語のspiritus「息,呼吸→精神」である(キリスト教ラテン語の影響)。なお,英語のinspireは,元来「息を吹き込む」から,「霊感を与える」に変化した言葉で,フランス語を経由し,ラテン語を取り入れた。

(7) 日本語の聖書の訳の「霊と心と肉体」は,英語聖書の「whole spirit and soul and body」,ラテン語聖書の訳は,「spiritus,anima,corpus」,ギリシア語の「プネウマ,プシュケ,ソマ」である。

4 エゴ ego

(1) ラテン語のegoと,英語のIは,人称代名詞の単数主格として,意味と機能を同じくし,印欧祖語の*eghamを起源とする。1200年前後の英語は,ic「イチュと発音」された。英語の姉妹語ドイツ語は,ichは,イッヒであり,古い発音を保存している。

(2) 日本語のエゴイズム「自己の利益のみ主張する利己主義」の意味は,egoismより,egotismの方が正しい。

(3) egoismの語源は,近代に作られたラテン語egoismusである。

(4) ラテン語の接尾辞-ismusは,ギリシア語-ismosに由来するが,「〜化する」という意味の動詞から名詞派生語を作成するにすぎない。

(5) 英語-ismは,どんな品詞からも名詞を作る万能接尾語になった。hiroism,patriotism,surrealism,modernism,post-structurismなど。

(6) (投稿者注)「〜化」「〜化する」とは,基本的には,今までそうでなかったものを,そうするという意味である。そうであったものを,一層そうするという意味の場合もある。

5 戦争と平和 bellum et pax

(1) ラテン語のbellum「戦争」は,ローマを征服したゲルマン民族に駆逐され,英語にも,ロマンス語にも残っていない。

(2) 英語は,わずかに,bellicose「好戦的な」,belligerent「交戦中の」に残る。これは,15世紀ころの人造ラテン語を元に作られた人造語である。

(3) ラテン語のpax「平和」は,ロマンス語にも英語にも残る。

(4) ラテン語のpax「平和」は,ラテン語のbellum「戦争」後の「取り決め,決着。相手を倒し,服属させた後の後始末。」である。負けた方は,「心の平和」はない。

(5) 英語のpeaceは,現在,「心の中の平和な状態」と「国家など対外的な友好関係平和」の双方の意味があるが,その語源は,ラテン語のpax「平和」である。

(6) 英語のpeaceは,「心の中の平和な状態」を併有するに至った原因については,キリスト教が,「神との融和」にpeaceを使用したからであり,現代の日本人も,そのため,ピースという言葉を,「心の中の平和な状態」に使っているにすぎない。

(7) 英語のpay「支払う」の究極の語源は,ラテン語のpax「平和」である。「契約後の後始末による終結」が,payである。

(8) 英語のperish「死ぬ」の語源は,ラテン語のperire<per完全に+ire行く「死ぬ」である。

6 先住民と原住民 indigena nativus

(1) ラテン語のnasci(古い形は,gnasci)「生まれる」の語根gna-と,ラテン語のindigena「先住民」の語根gen-は,同じ語根である。

(2) 他の言語にないラテン語の特徴である「形式と意味の関係の持つ論理性」は,派生よる単語の増殖力を生むが,その一例として,ラテン語のnasci「生まれる」がある。

(3) nasci「生まれる」の完了分詞は,natusである。

(4) natusを核としたラテン語の抽象名詞natioは,英語のnationを,ラテン語の形容詞nativusは,英語のnative,naiveを,ラテン語の形容詞natalisは,英語のnatalを,ラテン語の名詞naturaは,英語のnatureを,ラテン語の形容詞naturalisは,英語のnaturalを,それぞれ生んだが,これが,派生である。

(5) national,nationality,nationalism,nationalize,internationalは,ラテン語の造語法を応用した近代ラテン語である。

(6) 語根をgna-とするラテン語は,genus「生まれ,種,性」がある。英語のkind,kin,king,general,gererous,genuine,generator,genital,pregnantを産んだ。

(7) ラテン語indigenaのindi-は,indu-「の中に,inと同じ」の変形であり,「中で生まれた者」の意味である。(投稿者注)英語では,intoとなろう。

(8) 英語のindigeneous people「先住民」は,支配民族に征服された民族を指すものであって,「原住民」に対比した言葉であり,現代的使用法である。

(9) 日本では,日本人がnative「その土地に先祖伝来住んでいた民族」であり,英語をネイティブの外人が教えるという使用法は,本来,間違っている。ホンモノのアメリカ人が教えるという意味で,ネイティブが教えるという使用法も,本来,間違っている。

(10) 日本語のナイーブは,「純真で愛らしい」という良い意味で使用されるが,英語のnaiveは,「物事の本質が見えていない,お人好しの」という悪い意味である。

7 愛と死 amor et mors

(1) ラテン語の名詞amorは,ありふれた言葉であるが,他の印欧語族にほとんど見られない。

(2) ラテン語の名詞amorは,日本語の愛と異なり,性的愛情のみならず,親兄弟への愛,友人知人への愛,書物,知への愛を包含する。そこで,ラテン語の名詞amorは,派生として,amicus「友」,amicitia「友情」,inimicus(in+amicus)「敵」→英語のenemy「敵」を産んだ。

(3) ウェルギリウスは,「牧歌」において,「愛は全てに勝つ」という意味で,Omnia vincit Amor. et nos cedamus Amoriと謳っている。

(4) オウディウスは,「変身物語」において,「愛の病は,決して,癒やせぬ」という意味で,Nullis amor est sanabilis herbis と述べている。

(5) オウディウスは,「名高き女の書簡集」において,恋愛賛歌として,Quidquid Amor iussit, non est contemmere tutum. と口説いている。

(6) オウディウスは,「恋愛指南」において,愛される要件として,Ut ameris , amabilis esto. と説き,愛されていると気が付くべき場合として,Qui nimium multus 'non amo' dicit , amo.と教えている。

(7)。ラテン語の名詞mors「死」は,ありふれた言葉であり,かつ,他の印欧語族に通常見られる。

(8) memento mori=don't forget to die「死を忘るることなかれ」は,常に生と死が隣り合わせであるという恐怖を持った中世ヨーロッパにおいて,中世ヨーロッパ社会が創作したラテン語の標語である。

(9) 他の「死」の表現として,英語のdecease「死ぬ」の語源は,ラテン語のdecedere<de離れて+cedere退く「死ぬ」である。

8 運 fortuna

(1) 英語のfortune「幸運,富,繁栄」の語源は,ラテン語のfortuna「運」である。

(2) ラテン語のfortunaの「運」は,「見極めの不確かさ」であり,吉凶を意味する。凶を包含するのである。

(3) ラテン語のfortuna「運」は,fors「運」が,-tunaという未来分詞「〜しようとしている」という接尾辞で拡大された言葉で,ferre「運ぶ」に結びつく。「行き当たりばったりに運ばれたもの」という趣旨である。

(4) ferreは,英語のbear「運ぶ,耐える」と同語源である。bearは,burden,birth等の語を生む。

(5) fortunaは,擬人化され,「運の女神」とされる。「幸運の女神」ではない。

(6) オウディウスは,「悲しみの歌」において,運の女神の偶然性に関し,Passibus ambiguis Fortuna volubilis srrat et tantum constans in levitate sua est. と達観している。

9 同一性 identitas

(1) 英語のgender identity disorderは,「性同一障害」と訳されているが,余りよい訳ではない。3つの単語は,全てラテン語に由来する。

(2) 英語のgender「性」の語源は,ラテン語新語のgenus「種族,出生,由来」である。

(3) 英語のdisorderの意味は,dis(否定)+ラテン語のordo「秩序」である。「無秩序」というべきものであり,「障害」とは,やや違う。

(4) 語彙全体に認められる整然たる相互的関係性の例を示す。
usus(古典ラテン語) idem(古典ラテン語) 名詞 一 同一
unitas(古典ラテン語) identitas(後期ラテン語) 名詞 一体性 同一性
unicus(後期ラテン語) identicus(中世ラテン語)形容詞 唯一の 同一の
unificare(中世ラテン語)identificare(中世ラテン語)動詞 一体化する 同一化する
unificus(中世ラテン語) identificus(理念形) 形容詞 一体化する 同一化する
unificatio(理念形) identificatio(中世ラテン語) 名詞 一体化 同一化

(5) 上記の整然たる相互的関係性は,語彙の自己増殖能力を示す。英語は,ラテン語の自己増殖能力を,あたかも自分の能力のように装っているにすぎない。産まれた英語は,ラテン語の仕組みを知っていれば,「意味と形式の整然たる一致」がわかる。しかし,ラテン語の仕組みを知らなければ,英語を,意味の関連なく,一つ一つ覚えているにすぎない。

(6) 英語のunity「一体性」の語源は,ラテン語のunitas「一体性」である。

(7) 英語のunify「一体化する」の語源は,ラテン語のunificare「一体化する」である。

(8) 英語のunific「一体化する」の語源は,ラテン語のunificus「一体化する」である。

(9) -ficare,-ficusという動詞及び形容詞を形成する派生要素は,ラテン語のpax「平和」⇒pacificareは,英語のpacifyの語源であり,pax「平和」⇒pacificusは,英語のpacificの語源であるというように応用できる。ラテン語には,pacificatio「平和を作ること」という抽象名詞もあった。

(10) 英語のnew「新しい」と,ラテン語のnovusは,印欧語の語源を等しくするが,novusは,常に「珍奇な,いかがわしいという要素の付帯した,新しさ」であるところ,res novaと新しく作られた場合,単に「新しい事柄」というより,「政変,革命」を意味した。

(11) ラテン語から,21世紀に新語が造られる場合にも,形の上で,新奇さはない。つまり,意味と形式の整然たる一致は,崩すことはできない。

第9 変わりゆくラテン語

1 ラテン語は,一般大衆により変容したが,言葉の変容は,文法の誤りと指摘される場合もあった。

2 ラテン語の末裔は,地域の民衆による変容により,フランス語,スペイン語,イタリア語等になった。

3 ラテン語は,聖書に取り入れられ,新しい言葉を産んだ。

4 英語のangel「天使」の語源は,ギリシア語経由のキリスト教的なラテン語のangelus「天使」(cf本来のラテン語nuntius)である。

5 英語のapostle「使徒」の語源は,ギリシア語経由のキリスト教的なラテン語のapostolus「使徒」(cf本来のラテン語missus)である。

6 英語のbishop「司教」の語源は,ギリシア語経由のラテン語のキリスト教的なepiscopus「司教」(cf本来のラテン語antistes)である。

7 英語のprophet「預言者」の語源は,ギリシア語経由のラテン語のキリスト教的なpropheta「預言者」(cf本来のラテン語vates)である。

8 英語のpriest「長老」の語源は,ギリシア語経由のラテン語のキリスト教的なpresbyter「長老」(cf本来のラテン語senior)である。

9 英語のsaviour「救世主」の語源は,フランス語を経由し,ラテン語のsarvare「見張りをする」から派生した行為者名詞sarvator→salvatorである。これは, servus「奴隷」と同じ語源である。

10 英語のsafe「安全な」の語源は,ラテン語のsalvus「安泰な,健全な」である。

11 英語のsave「救う」の語源は,ラテン語新語のsalvare「救う」である。

12 聖書において,当初の意味である「主人」から,「人類の主」「神」(ヘブライ語ヤーヴェ)の意味に変容したのは,ギリシア語の「キュリオス」,ラテン語の「dominus家の主人(cf. domus家)」,英語のlord「家の主人」,日本語の主「家の主人」である。

13 英語のpassion「情熱」「受難」の二重の意味の語源は,ラテン語のpassio「心の動き,強い感情」である(キリスト教のラテン語化。patior被害などを被るcf. pascho)。

14 日本語の和製英語の「ペーソス」の語源は,英語の「pathos」<ギリシア語のパトス((1)身にふりかかること,(2)強い感情),17世紀の借用語である。

15 ラテン語は,本来,間接話法として,英語のthat構文,フランス語のque構文は,なかった。that you know only Catullusの代わりに,for you to know only Catullus,つまり,solum te nosse Catullusのような構文であった。(投稿者注)カットゥルスは,ローマの有名な恋愛相互拘束永久至上主義者である。レスビアという名前の高貴な女性に惚れて,一時相互に燃え上がり,結局女性に裏切られたことをネタにして詩に高め,一世を風靡した。自分を差し置いて他人に抱かれたレスビアを非難した詩として,Dicebas quondam solum te nosse Catullum , Lesbia. Nec prae me velle tenere Iovem. がある。

第10 ラテン語はいかに生き延びたか

1 古典ラテン語は,ヨーロッパの知識人を介し,生き残ったが,ローマ時代の資料は,パピルスであったから,摩耗消失し,現存しない。

2 3世紀の羊皮紙は,保存に耐えたが,修道院に残った古典期のラテン語が記載された羊皮紙は,キリスト教文献に再利用された。古典ラテン語の羊皮紙は,軽石などで削り取られ,その上にキリスト教文献が書かれた。再利用された羊皮紙は,英語でpalimpsestという。当然,目では復元できないが,現代では,薬品や放射線技術により,死から蘇ったラテン語文献が,いくつかある。

3 ルネッサンス期の詩人ペトラルカは,キケロの文献をイタリア各地に渉猟するなど,ルネッサンスは,ラテン語文化を蘇らせた。

4 英語のlibrary「図書館」の語源は,ラテン語のlibrarius「書籍商,出版業者,文書の書写役」である。

5 古典ラテン語は,ヨーロッパの辺境に残った。アイルランド,イギリスに,正当なラテン語文化が残り,近代を通じ,現代に伝わることとなった。

6 8世紀ヨーロッパでパリを首都とするフランク王国は,イングランド出身のラテン語学者アルクインを招き,衰退したラテン語の復興に力を入れた。

7 アルクインの時代,フランスは,既に現在のフランス語と同じように,たとえば,hを読まなかったし,語末子音を発音しなかったが,ラテン語は,これを発音する。

8 ラテン語の[b]は,[v]に摩擦音化している場合もあった。フランス語のavoir「持つ,所有する」の語源は,ラテン語のhabere「持つ,所有する」である。[b]は,[v]に摩擦音化していることがわかる。(投稿者注)英語のhaveの語源は,グリムの法則k→hから,また,ラテン語の綴りは,原則としてkはないことから,cから始まる単語となる。ラテン語のcapio(capere)が,英語のhaveの語源である(直接の語源というよりも,むしろ,印欧語族として同源であるのかもしれないが,その辺は,深く詮索する必要がない)。ラテン語のhabere「持つ,所有する」が,英語のhaveの語源ではない,ということは,グリムの法則の基本的適用場面として,認識する必要がある。

9 今でも,古典ラテン語を含む西欧古典学の学問は,イギリス,ドイツ,アメリカが,本場であり,すぐれているとされる。

第11 中世ラテン語

1 古典ラテン語は,俗語として,フランス語等ラテン語の末裔に変化していくとともに,衰退していった。ラテン語の書物は,キリスト教の教会内などに,どうにか,保存された。

2 中世ラテン語は,古典ラテン語を学ぶことにより,理解できる。逆に,古典ラテン語を学ばずして,中世ラテン語は,理解できない。

3 中世のラテン語として,カルミナ・ブラーナ(Carmina Burana)がある。

4 ドイツの作曲家カール・オルフは,1937年,カルミナ・ブラーナから24編を選択し,曲をつけたが,最初の章は,運命の神の偶然性を論じたものである。O Fortuna velut luna statu variabilis , semper crescis aut decrescis ; vita detestabilis nunc obdurat et tunc curat ludo mentis aciem egestatem , potestatem dissolvit ut glaciem.

第12 終章 その後のラテン語

1 古典ラテン語は,ルネッサンスによって,大々的に復活した。自然科学,哲学の書物は,18世紀まで,ラテン語で書かれることが多かった。ニュートンのプリンピキアしかり。文学は,近代では,ラテン語ではなく,自国の国語で書かれることが多い。著者は,イギリスのミルトンは,中世から近世に生きた人であるが,ラテン語で自己の真の作品を書いた最後の人であるという。

2 フィンランドの言葉は,ヨーロッパに珍しく,ウラル語族に所属し,ラテン語を含むインド・ヨーロッパ語族ではないが,ラテン語のラジオ放送を実施している。

3 ローマ教皇の統治するヴァチカン市国は,古典ラテン語が,日常語のみならず,公式文書の言語である。ヴァチカン市国には,新しいラテン語創出のための委員会が存在し,社会の発展に伴う新しい概念の発生に対応しているとのことである。

平成26年6月吉日
            以  上


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