昏睡で4年半を失っただけでなく、その先に広がっていたはずのJohnnyとSarahの2人の未来は永遠に失われてしまいます。約12年前に邦訳を読んだとき、Sarahの気持ちが分かった気がしていたけど、いまの方が、Sarahが平凡な生活の下に押し隠したその途方もない喪失感と悲しみがよく分かります。
Johnnyが交通事故に遭うまでの50ページを超えると、物語の展開が早くなり、より面白くなります。事故の起きる日に、JohnnyとSarahがお祭りの出店で賭けをしたThe Wheel of Fortuneの不吉なイメージが物語の中で何度もあらわれるので、そのイメージをつかんでおけば、さっとすすんでも大丈夫だと思います。
Jimmy Carter氏が民主党の大統領候補になる前後という時代設定で、選挙キャンペーンのシーンがよく出てくるので、このへんの政治状況を知っている方はより楽しめると思います。
キングは邦訳でも1冊しか読んだことがなかったため、ホラー作家という一面でしか捕らえていませんでした。でも、The Dead Zone を読んで、そんな先入観が吹き飛びました。
超現実的な話の設定の中でキングが描きたかったのは、ふつうの人間が苛酷な運命に翻弄されたときの孤独、苦悩、そして何よりも、その運命をいかに生きるのか、という点だと思います。
愛するSarahが人妻であるという葛藤、超能力によってもたらされる疎外感。Johnnyの苦悶が痛々しいです。彼は、何度も問いかけます。「神はなぜ、自分にこのような能力を授けたのか?」と。そして、Johnnyの選んだ道は・・・・。ラストには心がふるえ、思わず涙してしまいました。
キングの、伏線を見事に配した構成力、不吉な予感を煽るイメージ描写には脱帽です。これからも、他のキング作品を読んでいきたいです。