科学的教育グループ SEG

授業レポート

2015.01.29

中1英語

何より、生徒たちが楽しそう! 英文を大量に読み、英語を英語のまま理解する SEGならではの多読と英文法の授業

筆者である私は、実は英文科出身。英語は高校時代にかなり勉強したと自負している。しかし、入試では2次試験のリスニングに苦労した。中学・高校を通じてネイティブの発音をほとんど聞いていなかったので、文章は読めても、ネイティブの発音はなかなか聞き取ることができなかったのだ。
今は雑誌のライターをしているが、仕事で英語を使う機会はほとんどない。そんな私が、SEGの「英語多読コース」の授業の取材を依頼された。

この日、私が見学したのは、「中1英語多読C」の冬期講習の1コマ。授業は3時間で、前半がネイティブ講師による文法の授業で、20分間の休憩を挟み、後半が日本人講師による多読の授業という構成だ。後半 多読の授業を紹介する。

多読授業は、休憩時間から始まる

20分間の休憩の間、生徒はコンビニに飲み物やお菓子を買いに行ったり、友だち同士で話をしたりしている。特に女の子たちはとても仲が良く、お菓子交換が始まる。一方の男の子たちは、携帯ゲームで盛り上がっている。なかには時間を惜しんで、日本語の読書に励む生徒もいる。

休憩時間が10分経過したときに、SEG代表でもある担当の古川先生が到着。生徒に、「読み終わった本を返して!」と声をかけ、本を集めていく。それと同時に、「どの本が面白かった?」「これ、難しくなかった?」「この本どうだった?」と次々に聞いたうえで、次々に新しい本を出していく。授業補助のチューターも、次々に本を回収すると同時に、CDプレーヤーを配っていく。授業前の10分間は、先生方は生徒たちの机と本棚を行ったり来たりで戦場状態である。

そうこうしているうちに、授業開始の定刻になった。

先生が、「はい! 多読の時間だよ! 席に着いて!」と声をかけると、おしゃべりがみるみるうちに減っていき、生徒が机に戻っていく。洋書を開いてCDを取り出し、それを聞きながら自発的に読書を開始する。先生が、「読む本のない人は手を挙げて!」と言うと、4人の生徒が手を挙げる。授業時間前に、全員は回れなかったようである。

先生は読書記録手帳を見て、「このタイプの本と、このタイプの本とどっちがいい?」「この中でいちばん面白かった本は?」「この中の本でまだ読んでない本を選んで!」「じゃあ、これを読もうね!」などと次々に本を渡していく。

先生が本を渡している間、100冊近く積まれた返却本を、授業補助を担当するチューターが次々と本棚に戻していく。このようにして多読の授業が始まった。授業開始時刻5分後には、全員が集中して読書をしていた。

  • 多読授業は、休憩時間から始まる
  • 多読授業は、休憩時間から始まる

多読の授業が始まって5分後には、全員が集中して読書を開始。添付されたCDを聞きながら読む生徒。

多読の授業で読む本は、絵本からノンフィクションまでさまざま

「授業」といっても洋書を読む時間なので、先生が生徒に何かを直接教えるわけではない。教室内は静まり返っている。

生徒たちの机上には、これから読む本が積み上げられている。冊数は、7~10冊といったところ。いずれもSEGの教室に備えつけられた洋書である。

読んでいる本の内容は極めて多種多様。中1生なので Oxford Reading Tree や Winnie the Witch, I CAN READ BOOKS のような薄い絵本が中心だが、絵とセリフで構成された漫画形式の Oxford Bookworms Starter や Oxford Dominoes, Express Illustrated Readers を読んでいる生徒もいる。一方、挿し絵が入ってはいるものの文字が中心の Oxford Bookworms Stage 1 の本や、Nate the Great などの児童書を読んでいる生徒や、Oxford Factfiles のようなノンフィクションを読んでいる生徒もいるといった具合だ。

生徒の読み方もさまざま。小声で音読している生徒もいれば、黙読している生徒、声は出さずに口だけ動かしている生徒もいる。しかし、授業中に辞書を引いている生徒は1人もいない。「辞書は引かない」というのが英語多読の特徴なのである。なお、授業中の辞書引きは禁止されているわけではなく、実際、中3以上のクラスでは時々辞書で単語を調べる生徒もいるという。

  • 多読の授業で読む本は、絵本からノンフィクションまでさまざま

多読を行っている間には、先生やチューターが生徒一人ひとりのレベルに合った洋書を選ぶとともにきめ細かいアドバイスも

多読指導は、選書が決め手

多読指導は、選書が決め手
机間を巡回しながら生徒たちの様子を細かくチェックする
SEG代表の古川先生。

こうして生徒たちが洋書を読んでいる間、多読を担当する先生は何をしているのか。

実は、読み終わるのをただ待っているのではなく、生徒一人ひとりの席をゆっくり回って、読書の様子を観察しているのである。この日は人数がやや多いため、先生に加え、複数のチューターが授業を補助していた。いずれも多読クラスの卒業生だそうだ。

今日の授業は講習の最終日なので、授業開始直後から宿題の本の選定に入る。

先生は、各自の読書の履歴の概要と、直近の試験の点数、2学期担当の先生からの申し送り、この講習で行った速読理解度チェックテストの正解数と読書速度などを自分の「指導ノート」にメモをしている。3日間の授業の様子を見て、最終日に読んでもらうシリーズ、貸し出すシリーズを予め想定しているという。とはいえ、授業は”生もの”。当日の様子や生徒の希望を考慮したうえで、読んでもらう本や貸し出すシリーズを変更することもあると言う。

先生は、一人ずつ、
「冬休みにはどのくらい本を読めそう?」
「このシリーズはどうだった?」
「どんなタイプの本が読みたい?」
「特に追加したいシリーズ、ある?」
と確認しながら、
「このシリーズは面白いから続きも読んでみて」
「好きなシリーズを中心に選んでおいたよ」
「このシリーズは、CDが無いけど、自力で読んでみてね」

と声をかけながら4~10冊くらいの本を手渡していく。今回は、お正月を挟むので多めに借りて行く生徒さんが多いとのことだ。

古川先生に授業後に聞いたところ、「レベルを急に上げると、読み方が荒くなることがあるので、宿題では易しいレベルの本と、ちょうど良いレベルの本をうまく交ぜて渡すようにしています」ということだった。

いま、多くの中学校でも英語多読は導入されているが、選書は生徒任せになっていることが多いらしい。こんなふうに選んでもらって、生徒たちも満足そうだった。

読書記録手帳

生徒はみんな「読書記録手帳」というオレンジ色のノートを持っている。ある生徒の読書記録手帳をのぞかせてもらった。

これまでに読んだ本の、読んだ日付、題名、YL(読みやすさレベル)、語数、累計読書語数、本の評価、簡単な感想を生徒が自分で書き込んでいる。

この生徒さんは、4月には、Oxford Reading Tree Stage 4 を読んでいたのに、今はもう Rainbow Magic や Oxford Bookworms Stage 2を読んでいた。読んでいる語数も、すでに30万語を超えている。先生によれば、中1の冬の段階で30万語を超えている生徒は少なく、平均すれば、中1多読Cのクラスでも、10万語程度とのことだ。

その生徒が現在までに読んだトータル語数に応じて、「祝 5万語!」「祝 10万語!」といったシールが表紙に貼られていた。これはモチベーションを高める工夫といえそうだ。

  • 読書記録手帳
  • 読書記録手帳

「読書記録手帳」には、これまでに読んだ洋書の日付、題名、語数、簡単な感想などを書き込んで管理

読書記録手帳には先生のコメントもたくさん

読書記録手帳には先生のコメントもたくさん
先生は生徒一人ひとりの「読書記録手帳」を確認しながら、
アドバイスなどを書き込んでいく

さて、授業中の古川先生はというと、生徒一人ひとりの机を回りながら「読書記録手帳」に目を通し、その欄外に何やら書き込んでいる。見れば、その生徒への励ましの言葉やアドバイスだ。また、単語についての質問には、できる限り回答を書いているようだ。

そして、授業終了15分前。

「はい。区切りのいいところでやめましょう」と言いながら、先生は全員に記録用紙を配布した。生徒たちはその日に読んだ本についての情報をその用紙に記入し始める。

「宿題の本をもらっていない人、宿題の本が足りない人は手を挙げて」と先生は続ける。数人が手を挙げ、先生は生徒のところに行って要望を聞き、宿題を追加する。一方、授業補助のチューターは、CDプレーヤーと授業中に読み終わった本を次々に回収していく。

朗読音声を追いかける「シャドーイング」を全員で

朗読音声を追いかける「シャドーイング」を全員で
多読の授業の後半ではスピーカーから流れる音声を追いかけるシャドーイングを実施。
1回目はテキストを見ながら、2回目はテキストを見ずに発声。

授業時間が残り10分になると、今度は全員が同じテキストを開く。

これから行うのは、朗読音声をスピーカーから流し、それを聞くそばから影のように追いかけて声に出す「シャドーイング」という練習法だ。

興味を覚えた私は、取材後に「シャドーイング」について調べてみた。すると、同時通訳の訓練でも、このシャドーイングという手法が用いられるとか。かなり効果的な手法のようだ。

この日の授業では、5分間ほどのストーリーを、初めはテキストを見ながらシャドーイング。2回目は同じ音声を流しながら、今度はテキストを見ずにシャドーイングしていた。

この日に使ったのは “Frog and Toad Together”という Arnold Lobel の絵本の “The Garden” というストーリーだ。CDの朗読は、著者本人ということで朗読も感情が込められていて、音楽も入っていて、聞いているだけでも楽しい。そのなかには次のような一文があった。

Toad read a long story to his seeds.

これを英語が得意ではない日本人に読ませたら、「トード レッド ア ロング……」と、カタカナ発音で読むだろう。

しかし、この文章をシャドーイングする中1生たちは「トウドゥ レッダ ローング……」というふうに、見事にネイティブの発音になっていた。

授業後に生徒の感想を聞いてみました

授業が終わった後で、数人の生徒に授業の感想を聞いてみた。

「遊んでいる感じなのに、気がつけば勉強になっているのが不思議。学校の英語の成績もいつの間にかアップしている」

「ネイティブの先生といろいろ話せたり、さまざまな本を読めたりするのが楽しい。外国の物語だから日本の物語とは違うところがあるのが面白い」

「ネイティブの先生の授業ではところどころ聞き取れないときもあるが、身振りなどを交えてくれるので、意味はちゃんとわかる」とのことだった。

こうしたトレーニングを積み重ねていったら、高3になるころにはどこまで成長していることだろう……。少なくとも私のようにリスニングの試験で苦労をすることはないに違いないし、高校時代には自在にペーパーバックを楽しめるようになっているに違いない。私にとってはうらやましさばかりが募る取材だった。次はぜひ、高2・3の授業を取材してみたいと思った。

  • 授業後に生徒の感想を聞いてみました

Text by:ライター T