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お名前: 酒井@快読100万語!
投稿日: 2006/9/19(00:49)
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間者猫さん、とってもよい質問をありがとうございました!
そして、真剣に答えてくださったみなさん、ありがとー!!
〉"パピイ"さんは[url:kb:1125]で書きました:
〉〉間者猫さん、みなさん、こんにちは。
〉〉パピイです。
〉〉昨年、私の1000万語通過報告に同じようなことを投稿したところ、酒井先生から、
〉〉素晴らしいお返事を頂きましたので、みなさんの参考になればと思い、ここで紹介します。
〉コメントありがとうございます。
〉私、学生時代、精読いうものをやった覚えがないんです。
〉大学では訳本頼みでしたから。
パピイさんがぼくの昔の投稿を掘り出してくださって、
あー、それにつきるなーと、改めて思っております。
パピイさん、ありがとー!!
〉〉◆私の投稿(抜粋)
〉〉多読の一方で、精読は?と、いつも気になっていました。と言っても、多読を経験してくると、
〉〉学生時代やっていたような精読はとてもやる気が起こりません。
〉〉発想を変えて、精読を文章を深く理解することと考えれば、思いっきりレベルを落とした本は、
〉〉読むだけで、文章を深く理解する精読ができるのではと考えています。
〉〉◆酒井先生のお返事(抜粋)
〉〉その通りですね。精読のためには多読をたくさん積み重ねるしかないと思います。
〉〉ぼくが大学の同僚たちによくいうのは、「辞書を引いて、構文を分析してわかったつもり
〉〉になっても、それは本当にわかるのとはちがう」ということです。
〉〉わかるときはさらっと読んで、ふかーくわかるもので、一文の理解に時間をかければかけるほど、
〉〉ゆがんだ理解になるのです。これは大学以来の英文学のゼミでいやというほど経験しています。
〉さらっと読んで深く分かるというのは
〉ホントその通りだと思います。
〉〉この、「わかるときはさらっと読んで、ふかーくわかるもの」というお言葉から、
〉〉精読は、「するぞ!」と意気込む必要がなく、多読を積み重ねていくうちに精読できるところが
〉〉自然と増えていくものということを教えていただきました。
〉そうだと思います。
〉〉最近「HOME」という文字の無い絵本を読んでいて、“home”という単語の言霊がわかった
〉〉という素敵な投稿もありました。はっと「わかった」んですね、という報告からみて、この方がされていた
〉〉読み方(文字が無いから読むとは言わないでしょうが)は、精読と言っていいと思います。
〉先日、テレビで”Home alone”という映画をやっていて、
〉いいタイトルだなあと思いましたね。
〉子供が一人で家に取り残されているという意味だけじゃないんですね、これは。
〉英語のHomeが英語を母語をする人にはたまらない郷愁をそそる言葉ですね。
なるほど! って、思った!!
homeって、ひょっとして「さと」(ほら、「実家」とか、「里山」
っていうときの「さと」?)が中心的な意味なんですかねえ・・・?
いや、もうちょっと「家庭」なのかなあ・・・?
いや、「家庭」にはhouseholdっていう面もあるからなあ・・・
ま、ぴったり重なる訳語はあるわけないんだけれども、
こうやって分析すると、一筋縄ではいかないことがわかっていいかも
しれない。それに、なんとなくhomeの本当の意味合いがぼやっとでも
はっきり(?)してくるかもしれないし・・・?
〉〉またこの精読方法なら、いづこさんの
〉〉〉「多読のじゃまにならない精読」
〉〉〉「多読のためになる精読」
〉〉〉を知りたいなー
〉〉の答えのひとつになるのではないでしょうか。
〉〉以上、パピイの精読方法でした。
〉ありがとうございました。
ついでに、多読的精読の一つの例を、今書いている原稿からご紹介・・・
この紹介で・・・
邦題「神の手」という小説の一部ですが、精読がもし分析的な
読み方だとすると、精読では決してわからないことが、
多読ではわかるようになることを明らかにしたいと思います。
*********原稿から引用開始*************
こどもの決まり文句の怖さ
けれども、どちらの問題も、Aでとくに不都合はないように思えます。I’ll see what I can do.をもう一つ、パトリシア・コーンウェルのPredatorで見てみましょう。こちらの翻訳も「なんとかやってみる」という同じ訳がついています。下の日本語訳を最初に読んでみてください。別にわかりにくいとか、なんとなく引っかかるという翻訳ではありませんね。いわば「決まり文句」のことを知らなければ、すーっと読み過ごしてしまう文章です。まさに決まり文句の気づかれにくさを体現したような文章です。
この場面ではBentonという元FBI心理分析官が服役中の連続殺人犯に質問をしています。殺人犯のBasilは研究資料になる見返りとして、外部との郵便連絡を許可してもらおうと考えています。そこで、新たにChristmas Shopというところで殺人をしたとほのめかします。Bentonは嘘の告白かもしれないので、「郵便の件は?」という要求にタイして、答えをはぐらかそうとします。そこで使われているのが、I’ll see what I can do.です。
“Why don’t you tell me about it,” Benton replies, and he doesn’t know what Basil means. He isn’t familiar with a murder that occurred in a Christmas Shop.
“What about my mail?”
“I’ll see what I can do.”
“Cross your heart and hope to die?”
“I’ll look into it.”
資料4−E Predator, p.25, TIME Warner Books
「話してくれないか?」ベントンは答えたが、ベイジルが何のことをいっているのかわからない。クリスマスショップという店での殺人のことは、記憶になかった。
「郵便の件は?」
「なんとかしてみるよ」
「絶対に?」
「やってみよう」
資料4−J 『神の手』、40頁、講談社文庫
I’ll see what I can do.はまさにはぐらかすための決まり文句なので、殺人犯のBasilはそれでは納得しません。なんとかもっとはっきりした約束がほしいので、Cross your heart and hope to die.と言えるかと迫ります。Cross your heart云々は「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます!」に近い、こどもの決まり文句です。つまり、もっと強い約束をと迫ったわけです。そこでBentonは仕方なく、もう少しだけはっきりした約束、つまり「郵便許可について検討する」といいます。Basilはその約束のあとで、少しずつChristmas Shopでの殺人について告白をはじめるのです。
決まり文句の微妙さを翻訳すると・・・
資料4−Jの「なんとかしてみるよ」はもう少し弱めて、「やれたらね」、あるいは「時間があったら」といったはぐらかし表現がいいかもしれません。「絶対に?」は、原文がこどもの使う決まり文句だというところを生かして、「指切りげんまん?」としたいところですが、「いのち、かける?」や「1億円、かける?」ではどうでしょうか? 連続殺人犯がこどものような物言いをする恐ろしさをぜひ伝えたいところです。そしてこのやりとりの最後「やってみよう」は「検討しよう」とすると、郵便許可についてある程度の言質を与えたことになるので、それを聞いた殺人犯が告白をはじめるのに十分だと思われます。
*********原稿からの引用終わり************
どこが精読か?と思われるとしたら、精読=複雑な文章の英文和訳
という図式があるのではないかと思います。
ぼくのいう多読的精読は上のような文章の、心理的駆け引き、
連続殺人犯のこどもっぽいゆえにこわい物言いなどを読み取れることを
精読と考えます。
tallinnさんが引用した文章だけが「精読」用の文章ではありません。
もし精読が時間をかけることを意味するとしたら、それは「味読」の
ためであって、分析のためではありません。
そして味読のためにはCross your (my) heart and hope to die.が
こども同士の決まり文句だということを知っている必要があります。
それを知るには分析してもだめ、おそらくどんな辞書を引いても
これが決まり文句だということは書いてないでしょう。
では、どうしたらこの表現を連続殺人犯が使ったときの怖さを
味わえるか? それは児童書をたくさん読んでいなければ
あるいはこどもが登場する映画をたくさん観ていなければ、
無理でしょう。(バナナさん、ありがとー! Google Booksで
出てきた例はほとんどjuvenileつまり児童書だったよ!)
えーっと、そうすると「精読」の意味がおそらくtallinnさんを
はじめとする「相関」なんていうことにこだわる人たちとは
ちがっているんでしょうね、ぼくの場合。
上のような文章を味読(精読)できるようになれば、それは
英語をたくさん吸収しているということになるので、
tallinnさんの引用したような文章の「受験英語的精読」は
楽々できるようになっていると思います。実際、数人の人から、
Tallinnさんの引用した文章はあっさり読めたという報告を
個人的にもらっています。
どうしても分析的精読をしたい人たちにも、結局は多読的精読の
方が早いよって、教えてあげたいですね。
あ、それから、もっと長くて、複雑で、内容も凝っている文章
の「多読的精読」を見せてくれなければ、酒井ははぐらかして
いるとお思いの方もいらっしゃるでしょうね。実はそういう
文章の「多読的精読」に当たることを「多読的文法論(仮題)」の
第4章でやっております。とても長くて、ここに引用はできません。
出版をお楽しみに!
ちょっとだけ垣間見ていただくとすると、要するに「快読
100万語!」の理論編に書いたことです。いわく
「文章が長くなっても「意味のかたまり」は長くならない」
したがって、意味のかたまりをちゃんとわかっていれば、
どんなに長くても、複雑に見えても、文章の筋を見失うことはない
ということです。
では! みなさん、Happy reading!
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