Rebeccaの紹介(超長文)

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13406. Rebeccaの紹介(超長文)

お名前: wkempff
投稿日: 2017/7/8(18:37)

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ということで、Rebeccaのご紹介です。周辺をいろいろ調べたりしていたら、超長文になってしまいました。お時間のある方はおつきあいください。

Rebecca, by Daphne Du Maurier

【あらすじ】
ヒロインは、両親を失い、厚かましい金持ちのアメリカ夫人の付き人としてモンテカルロにやってきました。ここで、ヒロインは、イギリスの中年の富豪貴族、Maxim de Winterに見初められ、電光石火の早業で、Maximの後妻に収まります。
Maximは、だれもがうらやむ美しい城館Manderleyを所有しており、新婚旅行を終わり、二人はManderleyに戻ります。
Maximの前妻Rebeccaは、長身、漆黒の瞳の美人で、非の打ち所のない貴族でしたが、一年前、ヨット事故で死去しています。
Manderleyでは、女中頭のMrs Danversを中心に、使用人全員の出向えを受けますが、慇懃無礼でよそよそしく、執事も、Danvers夫人も、前妻をMrs. de Winterと呼ぶのです。
ヒロインは、朝起きると一日の食事のメニューを決め、女中や執事に指示を出し、近隣の名士を招待し、あるいは招待に応じ、女主人としてふるまわなくてはなりません。しかし、Mrs. Danversの棘のある態度、完璧な貴族の美女である前妻と比較されるコンプレックス、城館の西ウイングに完璧に保存されたRebeccaの寝室、Rebeccaが揃えた調度品、などから、次第にRebeccaの影に追い詰められていきます。
頼りになるはずの、夫のMaximも、思いがけないところで癇癪を起こしたり、ヒロインが女主人としてふるまわないことに不満を言ったり、不思議に黙り込んだり、と、頼りにならず、ヒロインは、実はMaximはRebeccaを深く愛しており、単に穴埋めまたは世間体のために自分と結婚したのではないかと思い始めます。
近隣の人々は、Ball(大舞踏会)の開催を心待ちにしていました。ヒロインは、大規模な仮装パーティ(fancy dress ball)を再開することを説得され、Maximもいやいや了承します。しかし、ここで、Mrs. Danversが策略をめぐらし、ヒロインを自殺に追い込もうとします。
そのとき、海辺に難破したヨットが上がり、ここから、思わぬ方向に動き出します。Rebeccaとはいったい誰だったのか、Maximとの関係はどうだったのか、次々と新事実が現れます。ヒロイン夫妻は窮地に陥るのですが、ヒロインはなぜか急成長し、Maximを献身的に支えます。

【ヒロイン】
ヒロインの名前は、ついに出てきません。最初から最後まで「I」です。そのため、この小説の真のヒロインは死んだRebeccaだという解釈もありますが、私は、この説は取りません。
ヒロインの名前について、きっちりと、記述があります。
ヒロインが最初にMaximからメモを受け取るモンテカルロの場面。
But my name was on the envelope, and spelt correctly, an unusual thing.
最初に昼食を一緒に取る場面、Maximは言います。
'You have a very lovely and unusual name.'

作者の名前は、Daphne de Maurierです。この明らかにフランスの名前が、ヒロインに投影されているように思いませんか?

【Manderleyのモデルと作者】
もちろん、架空の地名であり城館の名前です。しかし、モデルは現存していて、イングランド最南端に近いCornwallにある、Menabilly houseという城館がモデルと言われています。ヒッチコックの映画から想像するManderleyよりは小ぶりですが、それでも蔦のからまる堂々とした城館で、海を臨む高台にあり、海岸線にはいくつもの小さな入り江がある、とのことです。
Minabilly houseは現存していますが、大部分が個人所有である、という記述がネット上に見られ、必ずしもはっきりと確認できるわけではありません。Google mapでは、Minabilly farmという農場の建物の北東部に立派な城館とおぼしき建物があり、どうやら、これが、現在のMinabilly houseのようです。
Du Maurierは、1929年からしばしばこの地をおとずれ、Rebeccaのヒットの後、1943年から1969年まで、この城館を借り受け、自分でリノベーションを行い、住んでいました。
ネット上では、Minabillyの前庭で3人の子供を遊ばせている動画のほか、いくつもの写真を見ることができます。

【作者について】
作者は、名前から明らかですが、イギリスに移住したフランス貴族の末裔です。彼女の両親は高名な俳優、芸術家一家でした。彼女は、当時のイギリスの上流階級の常として、学校には行かず、家庭教師について、自宅で学習をしていました。
文学に傾倒し、1930年には作家デビュー、1937年には、前作Jamaica Innで流行作家の地位を確立しました。1937年に書かれた本作Rebeccaも、映画化前にヒットし、彼女は流行作家になっていました。
1943年、彼女は、家族とともに、ManderlyのモデルになったMinabillyに移り住みます。Minabillyで、軍人の夫、3人の子供と、半隠遁のような静かな生活を送り、ベストセラー作家、ヒッチコックの大ヒット映画(Rebeccaのみならず、「鳥」も彼女の原作です)の原作者らしからぬ暮らしぶりでした。しかし、近隣の人には非常に親切で愉快な人だった、という記述もあります。
作者の写真は、若いころから、いくつも残っています。美人ですが、女優のような美人、とはちょっと違い、長身で、意思の強そうな目が印象に残ります。Minabillyで子供を遊ばせる写真や動画の多くはパンツスーツ姿で、作家というより、むしろ、現代の巨大企業の少壮女性役員のような雰囲気も感じます。気が強く、気品があり、シャイで喧騒を嫌い、愛情あふれる人だったのでしょう。
Rebeccaのヒロインに、彼女自身の性格は、色濃く投影されているように思います。
Minabillyで子供を育てる動画のほかに、老境にはいったDe Maurierのインタビューの動画も残っています。典型的イギリス上流階級の英語で、堂々として知的な語り口です。

【英語について】
1938年の作品ですので、相当に古い英語、まわりくどい美文調の表現かと覚悟していましたが、拍子抜けするほどスムーズに読めました。現代の英語となんら変わることなく読めます。
しいて言えば、幻想と現実の交錯するような出だしの2章は、ちょっと読みにくい。
その後は、あまり難解な単語もなく、読み進みやすい部類でしょう。また、少なくとも3章からは時系列が崩れず、また、ヒロインの胸の内があからさまに書かれるので、あまり暗喩や伏線を気にすることなく読み進められます。

Last night I dreamt I went Manderley again.
という書き出しの一文は、この小説の人気と相まって、非常に有名になりました。
「国境のトンネルを抜けると雪国であった。」(川端康成 雪国)
「石炭をば早や積み果てつ。」(森鴎外 舞姫)
「木曽路はすべて山の中である。」(島崎藤村 夜明け前)
このような、日本文学の傑作の書き出しと、雰囲気が似ていますね。

もちろん、古い作品ですので、ときに、びっくりするような単語が出てきます。たとえば、次のようなものです。

Pigeon holes:さすが古い城館、部屋の中でハトが巣をつくっているのか、と驚きましたが、どうやら、小さな引出がたくさんある棚を言うようです。
Ball:舞踏会。正式で盛大な舞踏会を言います。仮装舞踏会:fancy dress ballとなります。
Gay:びっくりしましたが、頻出します。快活、陽気、という意味で、LGBTとは無関係です。He is a gay, cheerful person.と言われて、彼は陽気な人だ、という意味にとらえることは、最初は難しかったです。
Dresden shepherdess:文字通り、ドレスデンの女性羊飼い、なのですが、ヒロインの仮装パーティの衣装が、Dresden shepherdessがいい、と言われ、後に、Alice the wonderlandがいい、となると、わけがわからなくなります。どうやら、Dresden shepherdessは、マイセンの陶器人形で有名になった、人気の(しかしめったに着られることがない)衣装のようです。日本でいうと、京都の舞妓さんの装い、という感じでしょうか。
tangerine(ほろ苦いオレンジの一種らしい)とか、bezique(トランプゲーム、ブリッジのようなものらしい)、とか、辞書を引いても実感できない単語もあります。
気にせず、そんなもの、と思って読み進めれば、問題ありません。

【映像との比較】
この作品は、ヒッチコックの映画で全世界に有名になりましたが、その前に、イギリスではベストセラーになっていました。

ヒッチコック版は、相当に正確に、小説のプロットを再現しています。原作にそっくりなせりふも多い。しかし、当然、省略改変されている部分もあります。
もっとも大きな改編は、Rebeccaの死因でしょう。当時のアメリカ映画はがんじがらめの規制(Hays code)と検閲に縛られ、厳格なキリスト教右派の価値観が反映されていました。当然、悪人が幸福になる映画をつくってはいけないし、殺人の描写そのものがご法度でした。


▲返答元

▼返答


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