[掲示板: 100万語超 報告・交流 -- 最新メッセージID: 13567 // 時刻: 2024/11/26(15:57)]
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付録です。けっこう、Chandlerが主人公Marloweに言わせた気障なセリフは、流通していて、いろいろなページに紹介されています。
以下、私が気になったところ。多くの人に注目されているものも、取り上げられていないものもあります。
私家版、迷言集です。
ちょっとしたコメントつきです。会話のいくつかには、迷訳をつけてみました。
まずは、Farewell, My Lovelyより。
He looked as nervous as a brick wall.
#煉瓦の壁のように神経質、って、たぶん皮肉(ジョーク)でしょうね。
I put the pink bug down carefully behind a bush.
I wondered, in the taxi going home, how long it would take him to make the Homicide Bureau again.
#Marloweは、ビルの11階にある警察の殺人課で刑事と話しているときに、出口が見つからずに飛び回っているピンクの昆虫を見つけ、そっとハンカチに包んで、ビルの外の花壇に放します。二番目の文は、ピンクの虫が再度11階まで上がっていくにはどのくらいの時間がかかるか、という意味。最後の場面で、また、ピンクの虫は出てきます。物語のストーリーとはまったく独立の、Marloweの感傷。
I rode down to the street floor and went out on the steps of the City Hall. It was a cool day and very clear. You could see a long way-but not as far as Velma had gone.
#哀切な小説の最後にふさわしい、結末の文。Not as far as Velma had gone. これは心に刺さります。
次は、しゃれた、気障な、あるいは意味深な会話。
“Who is this Hemingway person at all?”
“A guy that keeps saying the same thing over and over until you begin to believe it must be good.”
#Marloweは、刑事の一人にHemingwayというあだ名をつけます。刑事はHemingwayを知らず、Hemingwayって誰だ、と聞きます。返しの皮肉がいいですね。
しかし、小説が書かれた1940年には、Hemingwayは、陽はまた昇る、も、誰がために鐘は鳴る、も書いておらず、ノーベル賞も取っておらず、駆け出しの、知る人ぞ知る作家だったようです。
I sat beside her on the yellow leather chesterfield. “Aren’t you a pretty fast worker?” she asked quietly.
I didn’t answer her.
“Do you do much of this sort of thing?” she asked with a sidelong look.
“Practically none. I’m a Tibetan monk, in my spare time.”
“Only you don’t have any spare time.”
(試訳)
私は黄色い皮張の長椅子の、彼女の横に座った。
あなた、ほんとうに手が早くていらっしゃるのね、彼女は静かに言った。
私は答えなかった。
あなた、こういうこと、いつもなさっているんでしょう? 尋ねた彼女は流し目だった。
現実はそんなんじゃないですよ。暇なときは、私はチベットの僧侶ですよ。
それは、暇がないだけでしょう。
#普通の小説なら、このまま深い仲になりそうですが、ここで寸止めになるのが、1940年です。Chandler節と言えなくもありません。
“I said I’d call you.”
She sighed. “All men are the same.”
“So are all women-after the first nine.”
(試訳)
電話する、と言いましたよね。
男の人は皆同じね、と彼女はため息をついた。
それは女性もそうでしょう--最初の9人の後はね。
#これも、危ない会話だけで終わります。なんで9人なんでしょうね。
次は、The Long Goodbyeより
"Alcohol is like love," he said. "The first kiss is magic, the second is intimate, the third is routine. After that you take the girl's clothes off."
#これは、男性同士の会話。まあ、他愛ないといえば他愛ないですけれどね。
"Goodbye," she said coldly. "I always find what I want. But when I find it, I don't want it any more."
(試訳)
さよなら。いつも、欲しいものを見つけるけれど、見つけたら欲しくなくなるのよね。
#Marloweが唯一心を許せる女性との電話。美人でリッチな女性の本質を表しているような気がします。
There was a long dark hair on one of the pillows. There was a lump of lead at the pit of my stomach.
#心を許した女性と、行きずりのような、愛し合っているような微妙な一夜を過ごし、しかし、Marloweは別れを告げる決心をします。彼女が去った後、寝乱れたベッドの前で。
#ネタバレ風で恐縮ですが、Chandlerの最後の小説Playbackの最後で、この二人はよりを戻すようです。
I never saw any of them again-except the cops. No way has yet been invented to say goodbye to them.
#あまりにも有名な、最後の文。感傷だけでなく、警官にさよならを告げる方法は発明されていない、という、何とも言えない皮肉で終わるところがChandlerです。
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