追加:エドガー賞一気読みの記録

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13116. 追加:エドガー賞一気読みの記録

お名前: wkempff
投稿日: 2014/10/23(20:59)

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400万語通過報告、その2です。

このところ、エドガー賞がらみの作品をいろいろ読みましたので、受賞作品の紹介をしてみます。
またまた長文で恐縮。自分のための記録ですが、少しでも参考になれば幸いです。
●が、350万〜400万語の間に読んだ作品。

結論から言うと、読む本に迷ったら、エドガー賞にからんだ作品を読めば、間違いなく楽しめるのではないか、というところでしょうか。

【読んだ作品】
2011 Best Novel : The Lock Artist, by Steve Hamilton
2012 Best Novel: Gone, by Mo Hayder
●2013 Best Novel: Live by Night, by Dennis Lehane
●2014 Best Novel: Ordinary Grace, by William Kent Crueger

●2014 Best First Novel: Red Sparrow by Jason Matthews
●2014 Best Paperback Original: The Wicked Girls by Alex Marwood

以下は、候補作
2013 Best Novel Shotlist: Gone Girl, by Gillan Flynn
2011 Best First Novel Shortlist: The Serialist, by David Gordon

【エドガー賞とは】
エドガー賞、The Edgar Awardは、アメリカ探偵小説家クラブの文学賞。
アメリカのミステリーに関する賞の中で、もっとも権威があるといわれています。

Best Novelがもっとも権威のある賞ですが、同じ年に、Best Paperback Original、Best First Novelをはじめ、ノンフィクションやヤングアダルト、児童書など、12ジャンルがあります。

【ここでは、出色と思われる3冊を紹介。】

★Ordinary Grace:
ミネソタの田舎町の13歳の少年、聖職者の息子が、吃音のある弟とおもに、家族を襲った悲劇を乗り越え成長していく様を描いた、心温まる作品。家族の再生、宗教との関係が、淡々と語られます。中年になった主人公が、13歳の夏を回想して一人称で語る形式。ヘミングウェイのような、流れるような文体で、ミネソタ川、鉄橋、河原、教会、農作業のための小屋など、目に見えるようです。謎解きの要素もなくはありませんが、少年と弟の日常にいつか感情移入し、涙が止まらなくなりました。

Live by Night:
人間の業を深くえぐるような小説を書く、名文家Lehaneの新作。禁酒法時代を舞台にしたピカレスクロマンで、少年が、危機を乗り越えながら、マフィアのボスにのしあがっていく物語。舞台は、ボストンから、フロリダ州Tampa、そしてCubaに展開します。
恋人や父親との関係、仲間やボスへの複雑な感情が、ちょっとした表情や体の動き、視線などを用いて、深く描写されます。名文家の誉れ高いLehaneですが、文章は暗喩に満ち、情感たっぷりに人間の心の奥底をえぐり、ギャングの会話は恐ろしげに直接的でなく、相当に読みにくいです。しかし、名文であることは私にもわかり、実力不足を痛感するとともに、なんか悔しいです。
(クリント イーストウッドが監督した、Mystic Riverの作者です)

Red Sparrow:
元CIAのエージェントが、SVR(前身はKGB)とCIAの諜報戦を描いた、臨場感あふれるスパイ小説。主人公は、美人のロシアのスパイ。家族を守るために、ハニートラップ要員(Red Sparrow)に育成されます。
CIAとSVRのスパイの間で、追跡劇ありハニートラップあり二重スパイありの、重厚な展開です。007やミッションインポッシブルのような超人間的スーパーヒーローが現れないところが臨場感を高めています。
作者は33年間CIAエージェントを務めた新人。語彙レベルは相当に高いですが、文章は報告書のように明快で、文句なく面白いです。

【エドガー賞の傾向】
以下、受賞作6作、最終候補2冊から、エドガー賞はどんなものか、無理やり、傾向をひねり出してみました。

・文学性重視
スピード感あふれる展開を必ずしも要求しているわけではなく、キャラクターの内面を深く描き出す小説が選ばれるようです。Ordinary Graceのような、ひたすら少年の内面の成長を静謐に描くような作編が、非常に高く評価されるのも、うなずけます。Live by Nightも、同様のくくりでしょう。
しかし、相当に幅広いことは間違いなく、受賞作品を続けて読んでも、同じような作品ばかり読む可能性は小さいでしょう。

・アダルト度はマイルト
性的な話題や描写は、ほとんどの作品にあります。しかし、マイルドで、女性にも十分におすすめできる作品ばかりです。
Mo Hayderは、持ち味の猟奇・残酷描写を相当に抑えて、Goneで、栄冠に輝きました。
Red Sparrowは、ロシアのハニートラップ要員が主人公で、性的話題も登場しますが、美人スパイ、ハニートラップもの、と期待して読むと、まったく期待外れの、権謀術策や国家的陰謀を中心に据えた、重厚な小説です。

・複雑な構造、実験的小説は、それだけでは評価されない。
上記の作品の中で、Gone Girlが、もっとも斬新で複雑の構造の小説ですが、賞を逃しました。同年に受賞した、Live by Nightに比較すると、相当に精巧に構成された、斬新な形式のホラーで、傑作と思いますが、いかんせん読後感が最悪でした(それが作者の狙いですが)。もっとも、LehaneのLive by Nightは、候補になった時点から、確実、とのうわさがあったのも事実です。
The Serialistも、形式としては斬新なのですが、ちょっと形式倒れで、選に漏れたのはうなずけます。
The Luminaries (Eleanor Catton)が、審査員も混乱させるような複雑な構造を持ちながら(あるいは、複雑な構造ゆえに)ブッカー賞を受賞したことを考えると、傾向の違いがみられます。

・英文のレベルは?
正直、語彙レベルはまちまちですが、非常に読みやすい小説が受賞していることには、注目していいかと思います。
Ordinary Grace (Kent Kleuger)と、The Lock Artist (Steve Hamilton)は、ともに、Native大人向けの洋書では、もっとも読みやすい部類でしょう。
Red Sparrow は、政治的語彙、電報のような省略形、俗語がひんぱんに現れますが、地の文は報告書のように生硬で、TIMEなどを読みなれた読者には、かえって読みやすいかもしれません。
私は、どうも、英国の作家のもの、たとえばMo Hayderの作品のほうが読みにくいようです。そして、名文家のほまれ高く、情緒的で、情感を深く描きこむ、Lehaneの作品は、やはり難しいです。名文であることは、私にもわかります。深く味わえるようになりたいものです。

・はずれなし?
上記8冊のうち、6冊は、非常に堪能しました。The Wicked GirlsとSerialistは、いまいちだったかな。もっとも、Serialistは受賞していませんが、日本では、上川隆也主演の映画(二流小説家・シリアリスト)で人気作品になりました。
しかし、読むものに迷ったら、とりあえずEdger賞がらみのものを読む、という方向で、大きく外すことはないと思われます。


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