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2568. English Fairy Tales イギリス童話集の内容と時代背景について(ネタバレ)
お名前: 主観の新茶
投稿日: 2008/5/1(07:59)
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第1 読んだ本
Joseph Jacobs English Fairy Tales
PUFFIN CLASSICS
このシリーズは,一物一価の法則が働いておらず,書店でかなり異なるが,1000円前後の価格である。
イギリス童話集は,1890年及び1994年に出版されたが,本書は,この2つの童話集の抜粋である。全部読んでみたかったから,抜粋という点が,残念である。
第2 時代背景と考察
1. ジェイコブスのイギリス童話集は,グリム童話集等を意識し,これに対抗するように編集されたといわれている。これに対する文学者の論考は,汗牛充棟,世に満つと思われるが,読んでいないから,文学と全く無関係に,現代と思考を縦横させて,書いてみよう。
2. グリム童話集は,ドイツ人グリム兄(1785〜1863),グリム弟(1786〜1859)により,1812年初版が出版され,改訂に改訂を重ねて,道徳臭を深め,1857年,第7版が出版されたとされる。アンデルセンは,デンマークの人,1805年から1875年まで生き,1835年から,祖母から聞いた話を脚色したり,自ら考案するなりして,童話集を毎年のように出したといわれる。
3. イギリス人ジェイコブスは,1854年生まれ,1916年死亡した。
1854年といえば,日本は,日米和親条約を締結し,アメリカに関税につき最恵国待遇を供与し,自主課税権を否定した。自主課税権の否定は,自主裁判権の否定とともに,抽象的な国家の存立のみならず,具体的に国民の生活を脅かす所為である。この年,イギリスでは,スコットランドに,公認会計士の嚆矢である勅許公認会計士制度ができた。今年4月から,公開会社に内部統制が実施されているが,株式会社を相互監視する役割として,公認会計士の役割も,一段と重要になるはずである。エージェントは,プリンシパルの意図するとおりに動かないものであるという経済学のゲーム理論の法理は,株式会社にもよく当てはまるようであり,エンロン,ワールド・コム,カネボウと,また,少し色彩が違うが,サブプライム問題と,性懲りもなく,会社制度の機能不全にも,会計原則の一つである継続性の原則を発揮するのである。話を戻すと,翌1855年,1620年に南海バブルの崩壊に懲りたイギリスは,株式会社を禁止してから,実に,200余年を経て,株主有限責任を再度認めるに至ったのである。株式会社は誰のために存在するのかの議論が,今でも時折かまびすしい。株主のためだ,従業員のためだ,債権者保護だ,消費者主権だ,近隣の住民のためだ,ステークホールダー全てのためだなどと主張され,これら全てだという人もいるし,人類全てのためだとまで言った人がいるかもしれない。元々社会で有用で,幸福にするシステムだから,法律でそのシステムを保護するのである。幸福にしないシステムなら,やめればよい。株主有限責任の原則は,きわめて人為的な制度だから,廃止しようと思えば,すぐに廃止可能である。その代わり,今,株主有限責任の原則を廃止し,無限責任にしたら,出資をする人は激減し,アニマルスピリッツを発揮するリスクテイキングな人は滅多に出現せず,新発明や新製品は,商業的に製品化されない。明治政府も,維新後早々とこれに気がついて,商法を制定しようとしている。もし150年前ころからの株式会社制度がなければ,今ごろ,パソコンがないどころか,ろくな音楽装置もないだろうし,いわんや大衆が電車や車や飛行機で移動する自由もないし,電話などという通信手段もない。あるにはあるが,特権階級の高価な代物だったであろう。
ジェイコブスが死んだ1916年といえば,日本では,・・・いいのがないぞ・・・,郵便局が,簡易生命保険を開始した。郵便貯金は,1875年に始まった。郵便事業は,明治維新直後だ。前島密のことはよく知らないが,イギリスに留学しているから,イギリスを範としているのであろう。しかし,国家統制のにおいがふんぷんとする。今,やっと民営化しているが,完全な民営ではない。原則として通信内容の統制はもってのほかだが,手段としての通信を統制した方がよい時代と,統制しない方がよい時代の基準は,どこにあるのだろうか。なお,日本人の郵便局依存は,明治始まって以来の長い歴史であるし,逆に,たかだか150年程度のものだともいえる。
イギリスの1916年といえば,良いものが思いつかない。単身赴任したばかりだが,世界史年表は,持ってこなかった。
4. 長くなった。ここでは,ジェイコブスは,ドイツを意識し対抗したと仮定しよう。当時のイギリスは,七つの海を制覇し,産業も勃興した。しかし,イギリスは,1870年代から,約20年の不況,デフレに陥った。1878年,スコットランドのグラスゴー銀行は,長年の粉飾決算がついに続かず,突如,倒産した。1997年11月3日の三洋証券破綻,11月17日の北海道拓殖銀行の破綻,11月24日の山一証券の自主廃業,11月26日の徳島シティ銀行の破綻,翌1998年10月23日の長銀破綻,12月13日の日債銀破綻を彷彿とさせる。アメリカは,ひたひたとイギリスに迫り,イギリスを追い抜いていくのだが,海を遠く越えているから,イギリス人には,意識されなかったであろう。意識したのは,ドイツである。
5. ドイツ帝国の成立は,明治維新より後の1871年1月18日である。ドイツは,国家を揚げて,イギリスに猛追しようとした。国家を揚げてというのは,国家という人間がいるわけではないから,税金を集約して人を動かせるような国家システムの中で活躍しようとした野心のある人物が多くいたというにすぎないと言いたい。日本は,やがて,イギリスやフランスではなく,ドイツを模範とする分野を多く持つようになる。
6. ジェイコブスは,ドイツに対抗したとはいえ,民間のにおいだけがする。グリム兄弟は,国立大学教授だから,税金で食んでいたと思われるが,国家統制的発想で行動していたと思われる。ここが,ドイツとイギリスの違いだろう。ドイツは,福祉でさえも,ビスマルクのアメとムチのうち,アメとして,1983年から89年にかけて,いわゆるビスマルク3部作の社会保険を策定する。これに対し,イギリスは,1834年の新救貧法,1837年から始まるビクトリア女王の穏やかな治世があるが,1869年にロンドンに慈善組織協会が発足し,イギリス全土に慈善事業が広まる。1887年,エドワード・ベラミは,小説「ひるがえってみれば」において,from the cradle to the graveゆりかごから墓場までという有名な言葉を残したのであるが,あくまで民間人が言い出したところが,ドイツとは違うと思われる。翻って,日本の福祉は,誰が作ったのか。その歴史と現状と将来は,どうか。紙面が尽きた,といいたいところだが,実は,これがおいそれと書けるようなら,専門家だと思う。そう簡単には,書けない。
7. 最後に,ジェイコブスがこの童話を出版した1890年は,ドイツが,鉄鋼生産力で,イギリスを抜いた。今や,基幹産業の鉄は,日本の大企業さえ,世界的な合併の嵐にさらされている。イギリスは,基幹産業の力で抜かされたのであるから,お尻に火がついたも同然の状態であったかもしれない。しかし,ドイツも,やり方が性急に過ぎ,強引に過ぎた。これが,第1次世界大戦を生み,その戦後処理に失敗し,第2次世界大戦を生んだ。日本は,イギリスやアメリカやロシアと同盟する路線も追求したが,結局,第2次世界大戦では,ドイツを選択した。そして敗戦し,戦後,60年余を経由したのである。話を元に戻すと,ジェイコブスは,一民間人として,グリム兄弟の背後にいるドイツという国に対抗意識を燃やし,童話集を蒐集したと,今は仮定しておきたい。ジュエイコブスが,単にグリム兄弟という人ではなく,ドイツをさらに世界を政治的・経済的・法律的・社会的・文化的・科学史的にどう認識し,物語を収集したか。ここに興味がある。これが,結論として,言いたかったことである。イギリス童話集の出版事業としての成立が,ドイツより遅かった理由は,国家的に動く人物が,ジェイコブス以前にいなかったからであろう。ここがまた,おもしろいと思うのである。
第3 作品の紹介
1. Tom Tit Tat
娘は,実母の焼いたパイを食べたくらいで,死の恐怖を味わうが,自分が播いた種を自分で刈り取った。母親も,王も,helper(Tom Tit Tot)も,娘に情け容赦しなかったが,切り抜けたのである。教訓ものだろう。娘が,以後,誰と暮らしたか,はたまた,独立しえたかは,書いてない。
2. The Old Woman and her Pig
言葉の繰り返しである。教訓は,ないと思われる。幸運な一日とまではいかなかったが,まずまずの「おばんさん」の話。自宅を掃除していて見つけたsixpenseを,market市場で豚一匹と交換し,豚を柵に入れるという普通なら簡単な話を複雑にしただけの話である。
3. How Jack Went to Seek his Fortune
烏合の衆の仲間が役割分担し,盗人の金を強奪した。その後のことは,書いてない。
4. Nix Nought Nothing
王子は,仇敵のgiantに欺かれ,捕われの囚となるが,giantの娘と,苦難の末,結ばれる。王子の父親である王の家臣の妻hen-wifeは,王に息子を殺害された上,自分も殺され,浮かばれない。庶民は,かわいそうだね。これに対し,息子が殺されたのに,王に協力する庭師の男とその娘は,現代の目からすると,馬鹿みたいである。王と同じ人間なのに。
5. Cap o` Rushes
親に追放された3人娘のうちの末娘は,無償でメイドとして稼働して時を待ち,裕福な息子と結婚し,親を恨むこともなく,逆に,親孝行した。現代の末娘が知ったら,目を剥くような話。
6. Jack and the Beanstalk
有名なジャックと豆の木の話。若いジャックは,子牛と交換に豆の種を渡した謎の老人に,子牛を騙し取られたのかもしれないが,逆に,豆の種を媒介にして,見も知らぬ夫婦から,妻の善を利用し,見事,金品を強奪し,夫の大男を殺害した。謎の人物は,悪人と見るべきだろう。豆の大木は,金品を奪う相手を発見する手段の抽象化にすぎないであろう。この物語のいったいどこが,ジャックを賞賛できる点だろう。
7. The Story of the Three Little Pigs
有名な三匹の子豚の話。最後に,末子の子豚は,wolfを殺す。兄の子豚二匹は,生き返らない。3人子供がいても,1人生存競争に残れば,良いという時代か。母一人で育てたのだし。少なくとも,末子の子豚は,弱者ではない。
8. The Story of the Three Bears
「ばばあ」は,3匹の熊の住居に侵入し,衣食住を荒らした。3匹の熊は,善良なので,制裁を加えないうちに,ばばあは逃げ,行方は杳として知れない。この時代の独り者の老人は,生きるのが大変だったのであろう。また,老人は,得てして,善良ではなく,モラルハザードを欠いている人が多いものだ。1973年の狂乱物価時代,我先に買い求めてトイレットペーパーを店先からなくした30代,40代の世代が,今,老人となって,若い人の行動を憂えている現代を想う。
9. Jack the Giant-Killer
アーサー王の部下の一人ジャックは,奇策を弄し,八面六臂の活躍で,ウェールズ地方の異邦人(Giantに仮体)を成敗した。そして,恩賞に,女と城を与えられた。家臣皆これに習えという説話。現代では,通用しない。
10. Henny-penny
天が崩墜すると信じたHennyに付和雷同した仲間4人は,これを信じないFoxyに殺害され餌食になった。確率の低い天災を案ずるより,確率の高い人災に備えるのが,人生に必要であるという内容である。列子の杞憂の話に似ているが,列子の原典を読むと,天の崩墜を信じる者,信じない者に対し,確率として存在するが,これを憂うより,人生を楽しめという内容の哲学的問答であるから,随分異なる。
11. Chide Rowland
敵に捕われた妹と兄2人を救済し,敵の王を屈服させた末子の話。昔,キリスト教徒と,隣地の土着宗教とが争い,キリスト教が,困難を排除し,勝ったということであろう。
12. Molly Whuppie
人減らしで家を追い出された3人娘は,末娘の危険を顧みないリスク行動の結果,王の3人の息子と結婚し,裕福な暮らしというリターンを得るという,現代から見ると,新たな拘束発生の幸せを獲得する。
13. The History of Tom Thumb
親指トムは,機転の利く男で,王や家臣に取り入り,一定の成功を収めるが,極度の小男であったため,通常なら災難でないことが災難となり,あえなく死んだ。
14. Lazy Jack
Lazy Jackは,怠惰に見えて,任意の仕事で相当の報酬を受けるくらいであるから,馬鹿と見るべきではない。男子三日見ざれば,刮目して見るべし,ということか。金持ちに取り入り,娘の歓心を買って,逆玉の輿に乗った。こつこつ働く同期は,なんと馬鹿ではないか,という内容か。
15. Mr Miacca
外遊びの好きな悪童は,人さらいに会い,痛い目に遭うという教訓だろう。
16. Whittington and his Cat
大商人でロンドン市長にまでなったウィッティンゲンの有名な立志伝。空間を超えた裁定取引arbitrageで,身代を築いた。貧しかったから,人を観察する目ができた。そして,恩をもって仇に報いることさえした。a catは,1つの貿易品の例示にすぎず,実際は,もっと手広く貿易したであろう。裁定取引が全く非難の対象とされていない。日本でも,紀伊国屋文左衛門の話は,裁定取引の話では,同じである。後に身を持ち崩したとされる文左衛門が,得意絶頂の時,江戸幕府で市長に相当する役職に就任できる可能性は,もとよりあるはずがない。
17. The Laidly Worm of Spindleston Heugh
兄妹が協力し,邪悪な継母を追い出す。
18. The Fish and the Ring
運命の変更できないことを説く。しかし,バロンは,運命を最初から受け入れるのではなく,運命を変更しようと,他人の命を顧みない行動を選択する。運命に翻弄される女は,従順であり,結婚相手のバロンの息子は,無機質で感情が描かれていない。
19. The Magpie's Nest
鳥によって巣作りが違う理由を,ウソで語ったもの。
20. Kate Crackernuts
王の腹違いの娘2人は,ともに城を出て,別の王の王子2人を射止める。2人の娘のうち,継母の娘は,継母に意地悪された片方の娘を救うとともに,王子のうち1人の放蕩息子の女遊びを抜けさせる。
21. Fairy Ointment
看護師の女は,悪事を働く者とは知らずに看護し,応分以上の対価を得たが,相手に悪事を指摘したため,右目をつぶされた。恩を受けた者の悪事を指摘しただけで,身が危ない,という教訓である。今でいえば,企業内不祥事は,黙っていろという説話である。
22. The Well of the World's End
娘は,継母に意地悪され,渋々仕事をしたら,幸運にも,王子の妻になれた。文章の始めの方の展開は,昔話に典型的である。
23. Master of all Maters
悠々自適なプライドの高い古老の男性が雇った,従順だが馬鹿な若い召使い女の間の初日で,おそらく終末。
24. The Pied Piper
ネズミ退治で約束通り金を支払わなかった村人は,代わりに子供たちをさらわれたのである。村々を渡り歩く行商にきちんとした対処をしないと,後で仕返しされるという教訓のように見える。あくまで,村の人間側から見た話である。
25. The Golden Ball
娘は,首吊りの刑の寸前に,恋人に命を助けられる。恋人が,金の玉を見つけてきたからである。元はといえば,娘が,恋人を差し置き,見知らぬ見目麗しい若い男からもらった金の玉をなくしてしまったのが原因だ。
26. My Own Self
北国の周りに人のいない一軒家の寡婦の6歳の一人息子は,母親の目の届かないところで,多少の恐い経験をしながら,成長を始めていた,という話に読める。父親はなくても,また,田舎で友達がなくても,子供は,順調に育つから,心配するなという母親に対する励ましの意味があるか。
27. Tattercoats
娘は,唯一の家族の祖父から嫌われ,ろくな教育も受けていないが,とびきり美しく,かつ,孤独に苦しんだので,いつの間にか分別をわきまえており,王子に見初められて,めでたく結婚できた。
28. The Old Witch
リスクを取りつつ,機に応じ他人を手助けした娘は,他人に助けられて,金持ちになったが,そのリスクをまねした上,多忙を理由に他人を助けようとしなかった娘は,手にした金を失って,故郷に這々の体で帰った。
29. The Three Wishes
男は,妖精からもらった3つの願いをくだらないものに使い果たした。
30. The Buried Moon
月が出なかった時期があり,その原因を嘘八百で書いたもの。
31. Rushen Coatie
シンデレラ姫の原型。亡き母の言いつけに従って行動した娘は,継母の女王及び2人の連れ子のいじめに負けずに,王子を射止めた。継母らへの報復は,書かれていない。実母の言いつけは,守れということか。
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