フランス語200万語通過しました!

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1109. フランス語200万語通過しました!

お名前: タルタラン
投稿日: 2005/11/20(04:36)

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11月17日にフランス語200万語を通過しました。100万語をすっ飛ばしての報告になります。長いこと報告していなかったので、もしかしたら仏語多読を飽きらめてしまったんじゃないか、と思われてたかもしれませんね。申し訳ありません。

実際、100万語辺りから、ちょっとくじけそうになることが多々ありまして、今回はその辺について長々と書いてみたいと思います。

●再読がつらい!

50万語通過から、なんとか後述のフランス語GRのレベル2が読めるようになって来たのですが、その一方であまり自分の成長が感じられなくなってきました。というのが、レベル1の本の再読(何しろ本が足りないので、再読ばかりになってしまいます)を続けていたのですが、いつまでたってもそれらの本がツルツルと読める感じになっていかないのです。英語の場合、下のレベルを読むと清涼飲料水を飲むような快適な読書スピードでいい気分転換になるのですが、フランス語は四度も五度も読んでいるのに、あいかわらず豚汁をすすっているような手強さが残るのです。

そのせいで、段々と自信がなくなってきました。やっぱりもっと絵本とかを読んだ方がいいのかな、と思いつつ仏語の絵本はべらぼうに高いのでお金が続かないし、いっそ普通に文法学習と基本文の暗記にした方がいいのかも、とかぐずぐずと悩んでました。

●英語とフランス語のGRレベルの基準の違い

しかし、ある日ふと英語のGRとは基準が全然違うんじゃないかなぁ、と思い当たりました。例として、OBW1の“A Little Princess”と、Cle International社のGR語彙数500語の“En Famille”(日本では『ペリーヌ物語』というタイトルで有名ですね)がどちらもハウス名作劇場の王道のようなストーリーなので比べてみます。“A Little Princess”の方は、確かに400語レベルだとこれくらいの表現が限界だよなぁ、という印象を強く覚えるのですが、“En Famille”の方は最初のパリの雑踏の描写、ペリーヌが長い距離を死にそうになりながら歩いていく時の悲惨さ、おじいさんとの交流・・・どれを取っても表現の深さが、とても100語の差とは言えない感じがするのです。

フランス語は日常表現にしめる基本単語の割合が高い言語であると、よく言われます。だからフランス語は英語に比べて習得しやすい言語だと主張されたりもするのですが、これは単語信仰を持っている人の大きな誤解ですね。たぶん、フランス語は一つ一つの単語の意味の深さが英語のそれよりももっと深い。(だって、フランス文学の豊穣さを挙げるまでもなく、フランス語が浅い表現しかできない言語ってわけではありませんからね。)だからフランス語の語彙数が500語となっているのは、実際には掛ける二、あるいは三ぐらいにしないと英語のレベル感覚とは同じにならないんだと思います。確かに“En Famille”の描写は、英語の1000〜1500語ぐらいの描写と考えると納得がいきます。だから、僕は今まで相当なキリン読みから多読に突入して、無理矢理読めるようになっていたんですね。

●読みたい本を読む!

というわけで、フランス語こそ、多読で徹底した深い意味の理解に到達しないといけない言語だということになります。となると、もっとレベル1のGRを読む、あるいはもっと易しい本と読まなきゃならない、ということになるのですが、すると、まだ再読しなきゃならないのか・・・と、また最初の気の重さに戻ってしまいます。

ところが、ここでまた発想の転換です。フランス語が基本単語が多くしめる言語であるということは、逆にレベルを挙げたところで、英語ほど基本単語の割合が減るわけではありません。レベル2のGRを読んでみても、劇的に難しくなるわけでもなく、むしろレベル1よりも易しいことすらあります。そして、下に書いているように僕は一般小説も読みはじめているのですが、その一般小説がGRよりも読みやすいという、英語ではおよそ考えられない逆転現象すら発生したりします。

というわけで、フランス語のレベルはあまり気にしないほうがいいんだな、と悟りました。「中国語200万字で多読について考えたこと」[url:kb:1080]で杏樹さんが書かれているように、「レベルに関係なくおもしろくない本は読めない」の法則はフランス語でも、まさにあてはまります。もう、読める本を読む、読みたい本を読む、読めるところを読んで、読めないものはどんどん投げる、という感じで、多読の精神をアグレッシブに全開にしてやらないと、フランス語多読は楽しめません。この辺り、英語300万語通過報告[url:kb:6847]で書いた英語のふっきれ方とも同期してるんですが、本当に最近、本の選び方、読み方が戦略皆無でものすごくラフになっています。

●児童書が読めない!

ここまで読んできてGRや一般小説も読めるんなら、児童書に手を出せばいいのに、と感じた方もいると思うんですが、実は児童書を僕には「読めない」のです。これは僕があまり児童文学に興味が向かないから(実際、英語でもあまり児童文学には手を出していないんですが・・・)という訳ではありません。児童書で使われる「児童語彙」があまりに難しいのです。もちろん英語でも、学校で習う語彙と児童語彙にずれがあって、それが児童書を多く読んだ方があとあとPBを読むのに役立つ、というのが多読の主張であったのですが、フランス語の場合、一般語彙と児童語彙の乖離があまりに激しすぎる感じがします。極端なことを言うと、もう別の言語のような感じすらします。例えば、名古屋の丸善で発見した“J'aime Lire”という7才から10才のフランスの子供を対象にした読み物雑誌があるのですが[url:http://www.jaimelire.com/index.jsp]、僕はこれに出てくる単語の4割ほどが分かりません。飛し読みすらできないレベルです。これに比べれば、Camusの“L'Etranger”(邦題『異邦人』)の方がよっぽど読めます。(3分の2ほどで投げましたが・・・)あと、杏樹さんの読まれていた“Le Petit Nicola”も読めません。こちらは、語彙はなんとかギリギリですが、その厳しさと児童文学への興味のバランスが取れないからです。(それと、Nicolaシリーズは一文の長さがものすごく長いことがありませんか?その長さはProustの『失なわれた時を求めて』に匹敵する・・・これはちょっと言い過ぎ。)なぜ、フランス語ではこうしたアンバランスが発生するのかはよくわかりません。英語使用者は、語彙の豊富さを教養の高さの指標とするけど、フランス語では、むしろ子供っぽい語彙を使わないように洗練していく方向に行く・・・なんて、仮説を立ててみたくなります。

●フランス語GRの特徴

以上、長々とフランス語多読の考察をしてきましたが、この辺にして、フランス語のGRの特徴を述べてみたいと思います。GR注文の参考にしてみて下さい。
フランス語GRはおおざっぱに3〜4段階ぐらいにしか分かれていません。それぞれのレベルの中で、本ごとに使用語数が違っています。上に書いた通り、英語以上にレベルと読みやすさが比例しないので、あんまり気にせずに読みやすいものを読んで、読めないものは積極的に本のせいにするのが吉です。

・Hachette社 “Lecture Facile”シリーズ

最もお勧めするシリーズです。レベル1が500〜900語、レベル2が1000〜1500語、レベル3が1500〜4000語の語彙数に設定されています。一冊の単語数はレベルに関係なく10000〜20000語。さらに2巻ものや3巻ものがあって、非常に長いです。古典のRetoldを中心に、その他フランスの観光案内や伝記ものがあります。オリジナルストーリーはありません。

文字の小ささと、文章量に圧倒されますが、文構造が比較的単純でRetoldもきりつめられていないので読み飛ばしがしやすいと思います。丸善などで簡単に手に入れられるのもいいですね。英語のGRで言うとPenguinっぽいです。

・Cle International社 “En Francais Facile”シリーズ

レベル1が400〜700語、レベル2が700〜1200語、レベル3が1200〜1700語、レベル4が1700語以上という語彙設定。一冊の単語数は7000〜10000語程度。オリジナルのミステリ・サスペンスものと古典のRetoldものが中心です。種類が豊富です。

文字が大きく、薄いので読みやすい感じがしますが、文構造が複雑でストーリーもどんどん省略されて進んでいくので、GR特有の窮屈さがあって、結構苦労すると思います。雰囲気は英語のGRにおけるOxford、 難しさはPenguinの黄色レベル(笑)のような感じです。

・Hachette社 “Lire En Francais Facile”シリーズ

レベルは300〜500語と500〜900語の二段階。一冊の単語数は2000〜5000語でカラーの挿絵も豊富。全てオリジナル作品です。

語彙設定から、“Lecture Facile”シリースの前段階かと思って非常に期待したのですが、これはトラップです。どう考えても300語や500語で書かれているとは思えません。聞いたこともない児童語彙が頻出し、更に現代小説ではほとんど使われなくなった「単純過去」が随所に出てきて、読みにくいどころか、読めない。たぶんこれは、編集方針が外国のフランス語学習者向けではなくて、フランス人の子供が古典を読めるようになるための教材なんだと思います。このシリーズのせいで一時、大いに自信をなくしたので、あまり近づきたくないです。

●一般書の紹介 Agota Kristof の「双子三部作」

一般書も紹介してみたいと思います。紹介するのはAgota Kristofのいわゆる「双子三部作」です。以前、50万語通過時に第1作の“Le Grand Chier”をかなりのキリン読みしたことを報告しましたが、今回それにあわせて“La Preuve”“La Troisieme Mensonge”を読了しました。このシリーズは、フランス語多読者の方には是非一度通過して欲しいです。語彙も文章構造も易しく、それでいて心に深く残ること間違いありません。

作者のAgota Kristofはハンガリーからスイスへ亡命された方で、長いこと慣れないフランス語に苦労していたそうですが、そこからこのような簡素な文体を生みだして、世界的なベストセラー作家となりました。

・Le Grand Cahier(邦題『悪童日記』)(25000語)

第二次大戦の末期、小さな国境近くの村のおばあさんの所に疎開してきた双子の兄弟。しかし、そのおばあさんは貧しく汚ない生活をしており、しかも夫を毒殺したという噂で村中からきらわれていた。そんな、貧困と差別のなかを生き抜くために、兄弟は自らに遊ぶことを禁じ、厳しい鍛練と勉強を課す。その一貫としてノートに体験を正確に書くことにした。その際のルール:感情表現は正確ではないから、一切書かないこと。

感情を排された、極度に切りつめられた文体を通して、貧困・差別・戦争・死・性がせきららに表現されていきます。邦題は『悪童日記』ですが、彼等は決してただのワルガキではなく、彼等なりの正義をつらぬく強い意志を感じます。

子供によって書かれたという設定と、Kristofのフランス語能力とあいまって、非常に読みやすいです。かなり早い時期に読みはじめられると思います。しかし、重い小説です。エンディングもかなりショッキングです。

・La Preuve(邦題『二人の証拠』)(40000語)

前作の最後で、国境のあちらとこちらに別れたClausとLucas。村に一人残ったLucasの視点から、Clausとの再会を待ちながら戦後の混乱期のハンガリーでの生活が描かれます。今回のテーマは「愛」。恋人との、友人との、子供との交流、その一方で着実に悲劇へと向っていきます。

前作の一人称が全て“Nous”だったのに対して、今回は“Lucas”で書かれ、文体の簡素さはそのままですが、感情表現も少し入ってきて、かなり普通の小説のようになっています。その分ちょっとだけ難しくなってますが、かえって読みやすいかもしれません。

エピローグで衝撃のどんでんがえしが待っています。思わず「何じゃそりゃ〜」と叫んでしまうかも。すぐに第三作に突入せずにはいられないと思います。

・La Troisieme Mensonge(邦題『第三の証拠』)(33000語)

三作目のあらすじについては何も書けません。何を言ってもネタバレになってしまいそうなので。

難易度は二作目と同じですが、おそらく前作を読み終えた時点で読者の頭の中はパニック状態になっていて、さらに最初の内は作者もそれをあおるように物語を展開して行くので読みにくいです。後半で全ての謎が明らかにされた後は、非常に読みやくなります。ここらへんで、僕のフランス語における読速の最高スピードが出たと思います。

「戦争」と「小説」についての物語である、この「双子三部作」の感動をみなさんにも是非是非味わってもらいたいです。

●これからの指針

最後に、これからのフランス語多読の指針について。

・200万語通過本は、Hubert Mingarelliという作家の“La Derniere Neige”(邦題『おわりの雪』)という現代小説でした。雪深い小都市で、少年が病床の父親や職場である養老院の老人達を通して、死と向き合っていく姿を静かな文体で筆致していく味わい深い小説でしたが、まだちょっと手強かったようです。でも、この方は僕にとって非常に大切にしたい作家になるような気がしています。この作家は児童文学出身ということで、早速その児童文学時代のものを何冊か発注してみました。これで児童文学の壁を突破できるといいのですが。

・よく考えてみると、レベル3以上のGRを読むのを忘れていたので、レベル表記は気にせずどんどん読みたいと思います。

・最近、フランス語Podcastを聞くようになりました。
《Ma parole!》[url:http://ma.parole.free.fr/]
内容はこれといって決まっていなくて、Podcastというメディアでとことん遊んでみよう、というもの。なんの手加減もない、ナチュラルスピードのフランス語ですが、トークの軽快さと、こった効果音の使用で、何を言ってるか分からないのに、なぜか聞いていて楽しいです。で、何度も聞いてると少しずつ今週のネタが分かってきます。これを聞いた後に多読すると、脳内音声がこのPodcastのDJの方の口調になって、いいスピードで読めるんです。ともかくフランス語音声を浴びたいという方には、うってつけだと思います。

というわけで、長くなりましたが、なんだかんだ言いながらフランス語でも多読を信じてよかったな、というのが正直な感想です。他言語だと様々な困難があって、従来の勉強法で補完しないと無理なんじゃないか、という不安がどうしてもつきまといますが、むしろ他言語だからこそ、多読三原則を過激に適用すること!これしかないと思います。

それでは、Bonne lecture!


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