2015.01.20

特別対談 河合塾×SEG 新しい大学入試に対応するためにはどのような力が必要になるのか

信実秀則(河合塾 教育研究開発本部長)× 古川昭夫(SEG代表)

これから数年後に、大学入試は大きな転換期を迎える見込みです。
現在、大学入試改革に関して、文部科学省中央教育審議会(中教審)で展開されている議論を踏まえて、新しい入試ではどんな学習が求められるのか。
SEGが提携している河合塾の信実秀則教育研究開発本部長と、SEGの古川昭夫代表が語り合いました。

大学入学後も役立つ本質的な学力の養成で一致し、河合塾と提携

──SEGと河合塾はどのような形で連携しているのでしょうか。そのメリット、意義も含めて紹介してください。

古川 SEGは東京の塾なので、地方の進学情報には弱い面があります。その弱点を補強するため、河合塾から進学情報の提供を受けています。

信実 河合塾では特色ある校舎づくりの一環として、東大志望者対象の本郷校、医学部志望者対象の麹町校を設置しています。大学入試に合格することだけをゴールとするのではなく、大学入学後も役立つ本質的な学力の養成を目指しているところで、河合塾とSEGには共通点があります。そこで、SEGと連携し、本郷校では「プレミアム東大理類コース」、麹町校では「プレミアム国公立大医進コース」という高卒生対象の特別クラスを設け、SEGの先生方による数学の授業を展開しています。

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信実秀則(河合塾 教育研究開発本部長)



2019年度に「高等学校基礎学力テスト」、2020年度に
「大学入学希望者学力評価テスト」を新設

──中教審の高等学校教育部会、高大接続特別部会において、これからの大学入試に関する議論がされていました。なぜ今、大学入試改革の議論が浮上してきたのでしょうか。

信実 グローバル化の進行や少子高齢化など、日本にはさまざまな課題が山積しています。多様な問題を解決し、未来を切り拓いていかなければならない子どもたちに必要な力とは何か。それを考えることが喫緊の課題になっているためだと思われます。つまり、従来の「知識偏重型」の学力観から脱却して、「知識を活用する力」「夢や志を実現するために主体的に学ぼうとする意欲」そして「チームワークやリーダーシップを発揮し他者と協働する力」などを重視する学力観への転換が必要で、その方向に高校教育、大学教育が変わるためには、高校と大学の接続部分である大学入試を変えることが不可欠であるということだと思います。

古川 日本でも世界でも、求められるのは知識の量ではなく、従来の常識を打ち破って物事を成し遂げる力です。既存の枠にとらわれず、探究できる人材が要求されているのは時代の流れで、そこから逃れることはできません。

──具体的には、大学入試はどのような方向性に進むのでしょうか。

信実 まだ不確定な要素も少なくありません(2014年10月現在)。ほぼ確実なのは、2種類の共通試験が新設されることです。一つは「高等学校基礎学力テスト(仮称)」で、2019年度にスタートします。高校2・3年次に複数回受験でき、結果は高校教育の学修成果の把握と指導改善に生かすほか、高校生の就職活動や、推薦入試・AO入試を中心として大学受験の資料としても使用できます。もう一つは「大学入試センター試験」に代わる試験という位置づけの「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」です。「知識の量」ではなく、教科・科目の枠を超えた「課題発見・課題解決のために必要な思考力・判断力・表現力」を評価する出題を目指しており、記述式の解答方法も導入されるようです。2020年度から導入され、複数回受験も検討されています。

──「大学入学希望者学力評価テスト」では、CBTというコンピュータを利用した試験にする方向のようです。それに伴って、従来のように全員が同じ問題を解くのではなく、受験者の解答内容によって、コンピュータがIRT(項目反応理論)というテスト理論に基づいて、その受験者に最適な次の問題が提示される形式が考えられています。つまり、一人ひとり異なる問題を解くことになりそうですが、どのように思われますか。

信実 それを実現するためには膨大な問題数をストックしておく必要があります。1科目2~3万題を蓄積する必要があるともいわれており、大きな課題といえます。

古川 実は韓国でも同様の英語テストを実施する計画があったのですが、膨大な予算と手間が必要になるため、頓挫してしまいました。CBTが実現できるのか、疑問もあります。

信実 また、センター試験のように1点刻みの得点で評価するのではなく、段階評価にする構想も打ち出されています。

古川 それはあまり意味があるとは思えません。入学定員がある以上、どこかで合否が分かれるわけで、それが1点刻みか、段階評価によってたとえば10点刻みになるかの違いだけです。

信実 もう一つ大きな違いは、「大学入試センター試験」が教科型、すなわち教科の枠内で出題されていたのに対して、「大学入学希望者学力評価テスト」では、従来の「教科型」の出題に加えて、たとえば国語と理科など、複数教科・科目を合わせた「合教科・科目型」「総合型」の出題を標榜していることです。

古川 基礎学力の習得度合を測るには教科型の方が適しています。ただし、社会に出てから求められるのは、教科の枠を越えた力であることも確かです。理想は分かりますが、作問には相当苦労すると思います。たとえば建築学科志望者と電気電子工学科志望者では、必要とされる知識は異なります。大学で学科別の試験を合教科型にするのなら可能でしょうが、多様な学科の志望者が混在する共通試験の合教科型とはどのような問題を想定しているのでしょうね。

信実 その他、中教審では従前の枠にとらわれない議論も行われています。たとえば、英語はTOEIC、TOEFL、IELTS、英検などの民間の資格・検定試験の成績を活用できるという案です。他の科目でも、同様に民間の資格・検定試験で活用できるものもあるのではないかという意見が浮上しています。
 また、これまでは、特に国公立大学の場合、センター試験のほかに大学の個別試験があり、両方をあわせて合否判定を行う形がほとんどでした。けれども、10月の中教審の答申案を見ると、新しい入試制度では、「大学入学希望者学力評価テスト」のほかに、面接、小論文、集団討論、志望理由書、プレゼンテーション、部活動などの実績、資格・検定試験の成績などを活用した多元的な評価が提案されており、いわゆる「ペーパーテスト」の結果のみで判断することは避けるような方向性が示されています。さらに答申案では、一般入試、推薦入試、AO入試といった区分を廃止し、大学の個別試験に関しては、2014年度中に見直しの方向を取りまとめることを提言しています。
その一方で、選抜性が高い大学については、記述式・論述式の問題を出題してもよいのではないかという意見も出ています。

古川 大学によって入試制度が異なることになりますね。複雑な入試制度になるのは好ましくありません。今後の情報を注視しておく必要がありますが、直前まで決定しないようだと、生徒は混乱しますし、心理的な負担も大きくなってしまいます。

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古川昭夫(SEG代表)



中高時代の学びは「基礎知識・技能の習得」と
「考える力の向上」のバランスを図ることが重要

──新しい大学入試に対応するためには、中高時代にどのような力を養っておくことが大切になるでしょうか。

古川 まだ不確定な部分もありますが、旧来型の学力観からの転換を図り、それに沿った入試に移行するという方向性は見えてきた気がします。新しい学力観とは、単に公式や解法を暗記して、それを当てはめて解くのではなく、知識を活用して、試行錯誤しながら考える力を重視しようという方向性でしょう。すでに東大などではその兆しがうかがえます。たとえば、英作文はかつてのような単純な和文英訳ではなく、与えられたテーマについて自分の意見を記述する自由英作になっています。確固たる自分なりの意見がなければ、まったく対応できない出題形式なのです。数学の入試問題でも、東大はパターンにしたがって解ける問題の出題が減り、試行錯誤を重ねて、自分なりの解法の方針を見つけ出す力が必要な出題になってきています。ですから、中高時代には、「知識を活用する力」「試行錯誤して考える力」を意識的に養うことが大切です。ただ問題を大量に解かせて、処理速度を上げるというタイプの勉強法では対応できない時代になっていくと思います。ただし、「試行錯誤して考える力」を正確に測ろうというのなら、大学側にも配慮してほしいことがあります。それは、試行錯誤を伴う問題では、相応の時間が必要だということです。最初に立てた方針が間違っていたら、制限時間内に正解まで到達することができません。最初の方針次第で運不運が生じてしまうわけです。しかし、現実の社会では、方針が間違っていて失敗することの方が多いでしょう。それでもめげずに新たな角度から考える力が社会に出てからは重要なのですから、数学では試験時間を2倍に増やすといったことを検討してほしいと思います。

信実 これからの大学入学者に求められるのは「基本的な知識・技能」「知識を活用し課題を解決する力」「主体的にやり遂げる意欲や能力」の3つです。「基本的な知識・技能」は従来型の教育を継続すればいいと思いますが、「知識活用力・課題解決力」「主体的意欲・能力」を高める工夫が、今後の中高教育により一層望まれることになるでしょう。

──そうした力を高めるために、SEGと河合塾ではどのような教育を重視していきたいと考えていますか。

信実 受験生の「この大学に入学したい」という思いを応援するというスタンスで、学力を高める機能を弱めるつもりは一切ありません。それに加えて、いわゆるジェネリックスキル(汎用的能力、コンピテンシー)の向上を、教科の学習の中で育成できるようにしていきたいと考えています。たとえば、対面式の授業だけでなく、アクティブ・ラーニングを取り入れて、生徒同士で教えあったり、ディスカッションしたりする機会を増やすなど、新しい授業形態の導入も計画中です。

古川 国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムでは「探究する人」「知識のある人」「考える人」「コミュニケーションができる人」「信念のある人」「心を開く人」「思いやりのある人」「挑戦する人」「バランスのとれた人」「振り返りができる人」の10の学習者像を目標にしています。そうした力を持つ人を育てることが、本来の教育機関の役割だと思います。SEGでも、数学や英語の授業を通して、こうした学習者像、とくに探究心や信念、他人の意見に耳を傾けられる力を養っていきたいと考えています。

──そのような力を育成するために、どのような授業を実施されているのですか。

古川 SEGでは英語の多読を取り入れています。やさしい絵本から始めて、いちいち辞書を引いて逐語訳するのではなく、大意をつかんでどんどん読み進めていく学習法です。すると中3になる頃には「チャーリーとチョコレート工場」のようなかなり厚い本が読みこなせる生徒が続々出てきます。知らない単語があっても流れで読み進めることで、内容を類推する力が高まるのです。教師に教え込まれるのではなく、自分で主体的に進める学習法なので、やる気も高まります。数学も同じで、すぐに解き方を教わるのではなく、自分で考えて証明できると楽しさが増します。やさしい証明問題から始めて、少しずつレベルアップして、試行錯誤して考える喜びを体得させています。こうした授業を通して、探究心や思考力、主体性を育んでいきたいですね。
 ただし、「考える力」が重要であることに異論はありませんが、何の知識もない状態で考えなさいといっても、それは無理です。十分な基礎知識が身についていることが大前提であることを忘れてはいけません。「定義を理解する」「計算を速く正確にできる」基本的なトレーニングも重要です。中高時代の学びは「基礎知識・技能の習得」と「考える力の向上」の双方が大事なので、SEGでは、そのバランスをうまく調整して、より効果的に、中高生の学力を伸ばしていきたいと思っています。

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